ソースコードをシェアするという発想
さっそくですが、まずは御社のサービス「piece」について教えてください。
「piece」を一言で表すと、機能単位のソースコードを売買し合うプラットフォームです。エンジニアやプログラマーが作り上げたソースコードをお互いに販売したり、プラットフォーム上で交流したりすることができます。
このサービスには2つのメリットがあります。まずは、ソースコードを購入することで開発スピードをあげられること。一つ一つの機能を一から全て作るより、時間を短縮することができます。
もう一つのポイントは、自社でコアとなる技術がない場合でも、購入したソースコードを使って自分たちでサービスを作っていけるということです。
これはどういうことかというと、例えば今までにない独自のアイデアで「新しい健康管理アプリを作ろう」ということになったとします。そのためには「脈拍を測る」という機能が必要。でも自分たちではその機能を作ることができない。
そんな時に「piece」では、スマホのカメラを使って脈拍を測れるソースコードが販売されているので、購入することでアプリのコアな機能を実装することができるのです。
どのような背景で「piece」を立ち上げたのでしょうか?
私たちは受託開発事業も行なっているのですが、自分たちでサービスを開発する中で、作ったことのない機能を作るって大変なことだなと思ったんです。また、エンジニアは日々「調べること」にほとんどの時間が取られることにも気づきました。Google検索で調べて、参考となるソースコードを探す時間が長いなと思って。
それなら、「こういう機能を作りたい」と思った時に、その機能をそのまま部品として購入できると良いのではないかと考えたのがきっかけです。
IT以外のものづくり産業を考えると、細分化された部品の売買が行われていますね。
そうですね。ITの世界ではサービスを開発する際に、フレームワークやライブラリがあっても、その組み合わせの仕方や完成品に至るまでの工程の部分で、自社に人的リソースがないと、新たに「エンジニアを探す」ところから始めなければなりません。
しかし、いまエンジニアは不足していますし、今後ますます不足すると思うので、ある程度設計された「部品」としてソースコードをシェアするという形で、効率化ができれば良いのではないかと考えています。
なるほど。標準化されたものだけで作る開発と、独自で開発するものの間を埋めるようなサービスとも言えますね。
そうですね。また「piece」は、一人のユーザーが、ソースコードを購入する側にも販売する側にもなることを目指しています。
それは、なぜでしょうか。
現状として購入側は、ほぼ初心者の方がサービスを作りたいという時に購入されるパターン、もしくは自分のところで抱えているエンジニアのスキルがあまり高くないために購入するパターンで利用していただいています。一方で販売側は、エンジニアが「ソースコードを販売して稼ぎたい」や「自分のソースコードを見せたい」、というパターンです。このように現状では、購入側は「初心者」、販売側は「できるエンジニア」と固定されています。
しかし、ユーザーが購入側もしくは販売側の立場であり続けると、購入側のユーザーが行う開発が、結局、販売側のエンジニアの労働時間に依存するものになってしまうと思うんです。そのため、「piece」上でユーザー同士が相互にレベルアップを図ることで、より効率的な開発につながれば良いな、と考えています。
物事をシンプルに考える
「プラットフォーム」としての役割を意識されているのですね。浅野さんは代表として、普段お仕事の中でどんな動きをしていますか?
弊社は現在、私と12人のエンジニアで構成されています。エンジニアには開発に集中してもらって、それ以外の役割は全て私が担っています。
例えば、受託開発の営業やディレクション、「piece」のプロジェクトマネジメントから日々の経理、注文書や見積書の作成などの事務だとか、全部です。他にもビジネスコンテストに参加したり、都の女性の活躍推進人材育成事業の勉強会に参加したりもしています。これらの開発以外の業務も増えてきたので、そろそろ人を増やしたいと思っています。
エンジニアの方には開発業務に集中してもらう、といった形なのですね。
そうですね。また、オフィスは、あまり「オフィスっぽい」感じにはしたくないと考えていて。エンジニアが快適に過ごせるように、クリエイティブな空間・環境づくりを大切にしています。
ところで浅野さんは、ONE ACTをどのようなきっかけで創業されたのでしょうか。
私は、新卒から8年間キーエンスという会社に勤めたあと起業して、2社の立ち上げを経て、2013年に現在のONE ACTを創業したという経緯です。はじめに立ち上げた会社は、知人から「ブライダル関係の会社をやるから社長をやってくれない?」と声をかけられたのがきっかけでした。
その後、ご縁があって某IT企業の東京支社の立ち上げをすることになって、それがIT業界へ入るきっかけでしたね。システム検査やインフラの運用などを行う企業だったのですが、ITに触れていくうちに「自社サービスを作りたい」という思いが強くなりました。もっとクリエイティブに、「自ら作り上げる」ということがしたくなって。そこでONE ACTの創業を決めました。
キーエンスでのご経験やIT企業の東京支社立ち上げのご経験から、何か影響を受けていることはあるのでしょうか。
キーエンスは、産業の装置に使うセンサーや測定器を開発・販売する企業なので、「部品」を扱うという感覚は一緒ですね。ただ無意識で培われたものはあるのだと思いますが、基本的には過去の経験からの影響はほとんどないですね。自分の興味に正直に行動してきた部分が大きいです。
予定調和ではないことが好きなんです。例えば何か行動した際、自分が思った以上に結果が悪かったという時でも、その課題に取り組む瞬間が好きですね。
お仕事をする中で、大切にしている考え方はありますか?
サービスづくりに関していえば「物事をシンプルに考える」ということを大切にしています。例えば競合や類似サービスを調査しすぎないとか。
今、世の中に広く知られていないのであれば、それは無いのと一緒だという感覚で作っています。もし自分が普通に暮らしていて知っているサービスがあれば、さすがに調べますが、そうではなかったので「無いから作る」というシンプルな発想で「piece」を開発しています。
「あったら良いな」とか、そういう気持ちがあるということですね。
そうですね。自分も周りも含めて「あったら良いよね」という感覚、純粋な身近なニーズを汲み取った上で開発をしています。あと真面目なことを言うと、それが「社会貢献」になるのではないかなと。「piece」を使って、良いサービスをたくさん作っていただけたらと思っています。
「piece」があったからこそ…という世界をつくる。
今後サービスを大きく育てていくにあたり、メンバーも増えていくと思います。どのような人を求めていますか?
人物像でいうと「自ら帳尻を合わせられる人」に来て欲しいと思っています。今のところ「piece」の開発はフランスとインドで、現地のエンジニアが行っています。彼らと接していると、帳尻合わせのタイミングをきっちり自分で調整できてるんですよね。例えば「この期間で有給を取るから、それまでにこの部分を完成させます」というやり方。そこを自分でちゃんと決められる人は相性が良いと思います。今フランスとインドという遠隔地で、これだけ開発を任せられるのも、そういう部分で信じられるからなんですよね。
スキルや技術的な面では、どのような人でしょうか?
「piece」の開発はPHP、受託開発事業はJava、Ruby、PHPがメインなので、これらを扱えるエンジニアを求めています。またサーバーはAWSを使用していますのでそのあたりに強いエンジニアも求めています。それと「piece」にはソースコードの人気具合やリリースされてからの経過時間などに合わせて、販売価格が変動するという独自の機能があります。
今後、この価格変動機能にAIを追加で入れていく予定なので、Pythonが使えてAIを開発したいエンジニアの採用も考えています。
今、注目している技術や分野はありますか?
次世代のデバイス、つまりスマホの次に来るデバイスが気になりますね。体内埋め込み型になるのか、イヤリングや指輪などアクセサリーのようになるのか、脳波や筋肉の動きで操作するものや空間に映像を映せるものがメインになるだろうな、とか。多くの人が使う次世代のモノのプラットフォームってどんなものになるんだろうって。
「piece」はWeb上のプラットフォームですが、ゆくゆくはモノのプラットフォームを自社で作っていきたいなと思っています。
では最後に改めて、今後の展望を教えてください。
まずは「piece」を、世界で著名なサービスにすることが目標です。
そして世界中で使われる素晴らしいサービスがpieceを使って作られて、「pieceがあったからこそ、このサービスを作ることができたんだよね」という声をもらうことが本当の意味での成功だと考えています。そのために、「piece」を大きく成長させていきます。