感情解析技術を用いて、人々の満足度を高める
まずはじめに、田邊さんがCTOを務めるEmotionTechの事業内容についてお聞かせください。
弊社は、顧客の声に向き合うことで事業の成長や課題解決を目指す企業に対し、独自に開発した「感情データ解析技術(特許第6176813号)」を用い、目的に合わせた効果的な施作検討をサポートしています。具体的には、企業がその顧客に与えている体験を分析し、NPS(Net Promoter Score)という顧客のロイヤルティを示す指標を求めます。それを、顧客のロイヤルティをさらに高めるための施策の検討に用いていただくのです。このように、顧客の感情に注目して継続的な改善活動を行うことを、CXM(顧客体験マネジメント)と呼んでいまして、企業のCXMの取り組みをサポートするクラウドシステムを提供しています。
感情データ解析技術とは印象的な名称ですが、どんなことをする技術なのでしょうか。
大量のデータを分析して、顧客がどのような部分に満足しているのか、不満を持っているのかを明確にする技術です。例えば、クレジットカード会社の場合、カードのお申し込みの段階から、申し込み後のアフターサービスまで、様々な段階での利用者の感情をモニタリングし、NPSの指標で11段階の評価をつけるんです。また、顧客だけではなく、従業員の満足度を向上する目的でも弊社のサービスが活用されているんですよ。
サービスの本質として、世の中の人の満足度を高めたいという思いがあります。私たちの顧客企業も、その先のお客さんも、すべての人の満足度を高めていくのが理想の形です。
モニタリングはどのようにして行うのでしょうか。
弊社ではアンケートのサービスを行っており、企業のサイトからアンケートページにリンクを貼ってもらったり、専用のアプリの中に組み込んでもらったりしています。そのアンケートを使って顧客の感情をモニタリングするのです。あとは、web上の行動ログや、対面のサービスであれば画像や動画、音声データも活用することがあります。
アンケートでいかに多くの回答を集めるかは難しい部分で、設問の順番や質問項目の最適な長さを答えやすいように工夫したり、質問の仕方も意識しています。
田邊さんはEmotion Techの開発において、どの部分に携わっていたのですか。
私がこの会社にジョインしたのは2015年で、その1年前の2014年に、Emotion Techの旧バージョンがリリースされ、昨年2016年には新バージョンが完成しました。私は新旧の移り変わりの時期にCTOとして開発全体に携わってきました。新バージョンに、旧バージョンにはなかった新しい機能を追加することを考えているときは、一番ワクワクしましたね。
IT企業のイメージに憧れて未経験の業界に飛び込んだ
田邊さんのこれまでのご経歴を教えてください。
学生時代は情報系の勉強をしていたわけではなく、どちらかと言うと、やりたいことが決まらずにフラフラしていたんです。契約社員やアルバイトを掛け持ちして色々な仕事をしながら、そろそろ正社員にならなくては……と考え始めた時にIT業界を思いつきました。とてもミーハーな理由なのですが、当時はITバブルが弾ける前で、業界としても伸びているし、SIer(システムインテグレータ)のSE(システムエンジニア)がスーツを着てビシっと決めている姿を見て格好いいなと思って。まずは独学で勉強して基本情報技術者試験と初級システムアドミニストレータ試験を受けました。もしも試験に受かったら多少センスがあるのでは? とひとつの判断基準にしていたんです。結果、試験に合格し、ITの道に進むことを決心しました。
最初は未経験者を募集している会社に就職し、業務系SlerのSEとして、大手金融企業のビックプロジェクトに携わる仕事をしました。初めは右も左も分からず、プロジェクト全体を俯瞰して自分が担当する仕事の位置付けを把握する余裕はありませんでしたね。そんな状態からスタートして、そのうち色々な仕事を任せてもらえるようになり、後にはプロジェクトリーダーも担当しました。
順調にステップアップをしていきましたが、次第に、全部自分で作ってみたい、お客さんからのフィードバックを直接もらいたいという思いが強まって……。しかし、業務系Slerではなかなか実現するのが難しいと思い、webサービスを扱う会社に転職することを決めました。
Webサービスを扱う会社では新規プロジェクトに携わり、TwitterのAPI (Application Programming Interface:別のアプリケーションからもサービスの機能にアクセスできるように公開されたインターフェース)を使ったりして、SNSと連動するCtoCのウェブサービスを開発していました。それがとても楽しくて。次の会社ではエンジニアの部隊の立ち上げから担当し、初めて開発組織を作る経験をさせてもらいました。
その後、友人の会社の立ち上げにゼロから携わり、経験を活かして組織作りに協力しました。思いのほか早く会社が成長し、10人に満たなかったメンバーは150人近くにまでなりました。そうやって組織ができ上がった頃、大手クラウドソーシングサービスを扱う企業から経験を評価されて声がかかり、CTOとして開発組織のマネジメントを担当することになりました。そこでは1年半くらい働き、30人だった組織を120人に拡大しました。
あらためてこれまでを振り返ってみて、自分は、10を100にするよりも、1を10にしたり、0を1にする組織マネジメントの方に興味があるんだと思います。
良い組織作りのための心得
現在はどのような働き方をされているのでしょうか。
現在はサービス自体のコードを書く業務はほとんどしていませんが、誰でもできる雑務的なコーディングや設定を行うことはあります。それほど難しくなく、みんなやりたがらない部分ですね(笑)。私が面白い部分だけとってしまうとみんなが面白くなくなってしまいますし、CTOとして、社員のモチベーションを削がないように気をつけています。
田邊さんは組織作りに関して豊富なノウハウをお持ちだと思うのですが、良い組織を作るために大切にしていることがあれば教えてください。
組織マネジメントをする上で、ミッションと文化を大切にすることを意識しています。そこが一度壊れてしまうと、組織を立て直すことはとても難しいんです。そのため、最初の段階で「我々が大切にしているバリューはこういうことですよ」と伝えるようにしています。
また、エンジニアとして守るべきこと、してはいけないことをきちんと定義し、エンジニアとして我々はどうあるべきなのかを考えられる環境を常にこちらから提供するように心掛けています。会議でもアジェンダでも私がすべて意見を出すのではなく、基本的にはメンバーに意見を出してもらうようにしています。必ずメンバーひとりひとりが、自分の意見を口にする場を提供するんです。
御社ではどのようなエンジニアの方が働いているのですか。
現在、CTO経験者が5人働いています。技術力もマネジメント力も高い方ばかりなので、それを束ねるのは大変なことです(苦笑)。能力のある人が共に働いていることは、私にとって良いプレッシャーになっています。このままだと追い抜かれるぞ! という危機感も持てますから。また、意見を健全に言い合える関係は、プロダクトを作る上でも大切だと思います。意見を言いすぎて収束するのが大変な時もありますが、そこはマネジメントの腕を問われるところではないでしょうか。
新しいマーケットに挑戦し続け、世界で勝負したい
仕事の中で、いちばんやりがいを感じるのはどんな時ですか?
もの作りが好きなので、新しいものを作っている時や、プログラムのコードを書いている時は楽しいですね。しかし、一番楽しいのはサービスが世に広まって売り上げがついてきた時です。サービスを提供しているお客さんが消費者の満足度を高め、作っている我々も満足する。みんなのロイヤルティが上がり、満足の輪が広がっていく時に、私のモチベーションも高まると感じます。
現在注目している技術があれば教えてください。
顔の微表情から感情を読み取るマイクロ・エクスプレッションという技術には注目しています。商用化はまだ早いと言われているのですが、弊社のサービスとは相性がよく、すぐにでも応用できると感じています。
あとは、AI関連の技術を使い、Emotion Techの分析結果に対するアクションを自動化していく展望も考えています。これまでは、分析結果が出た後にコンサルティングメンバーが効果的な施策を提案してきました。蓄積したデータをもとに機械学習をさせることで、ロイヤルティ向上のための効果的な施策をリアルタイムで示唆する仕組みも提供していけると思います。
最後に、田邊さんの今後の展望を教えてください。
新しいマーケットに挑戦し続けていきたいですね。
Emotion Techでは、日本でまだ未完成のCXMの市場を作り上げていきたいです。 CXMのマーケットは、日本だけでなく、世界のマーケットでもナンバーワンになれるチャンスがあると思っています。
個人的には、技術者の人たちが新しいサービスを作ったり、新しいマーケットに挑戦しようとしているときに、何かしらの技術的なバックアップができたらいいなと考えています。スタートアップのエコシステムや文化といったものを大きく育てて、僕たちの世代で、もう一回「ジャパンアズナンバーワン」と言われるような時代を作りたい。技術側面から、そのための環境や組織づくりをしていきたい、支援していきたいですね。