CTOは「ちょっと・たのしい・おじさん」社員をハンズオフで見守る テモナ株式会社 取締役COO兼CTO 中野 賀通

2017.07.12 記者:佐藤 愛美 編集・校正:やつづか えり 撮影・取材サポート:神谷 亮平 インタビュー

今回お話をお聞きしたのは、テモナ株式会社にてCOOとCTOを兼任する中野賀通さん。個人のプロフィールサイトでは、「COO(ちょっと、おおきな、おじさん)」「CTO(ちょっと、たのしい、おじさん)」とユニークな肩書きを掲げている気になる人物です。実は中野さんは、過去には学校の先生として働いていていた経験があります。

彼が異業種からIT業界へ転職した理由とは? そして、教員時代の経験をどのように社員教育に活かしているのでしょうか。

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定期購入に特化した通販システム

はじめに、御社のメイン事業である「たまごリピート」について教えてください。

「たまごリピート」は、定期通販や頒布会など、サブスクリプションと呼ばれる継続的に売買が発生する取引に特化したサービスです。受注から販促までオールインワンで提供しています。具体的には、定期通販の管理業務自動化や、売り上げや広告データの分析、お客様へのフォローの自動化などです。このシステムを導入することで、販促強化や、人的コストの削減が期待できます。

特徴的な製品名は、継続的に商品を送り続ける定期注文を、ニワトリが育って卵を産む姿に例えたことに由来します。

たまごリピートのほか、「ヒキアゲール」というユニークな名前の製品を取り扱っていますよね。

通販ビジネスの現場では、「引き上げ率」というトライアル商品を受け取ったお客様が本商品を購入する割合を重視しており、この製品はそれを向上させるためのツールです。通販サイトの販売促進を目的として開発されたものです。

実際の店舗であれば店員がお客様一人ひとりに応じた接客を行うことにより購買を促すことができるのですが、オンライン上ではそうした個別の接客ができません。その課題を解決し、お客様の情報を分析して個別のアプローチを可能にします。

学校の先生を辞めて、IT業界へ

中野さんのご経歴を教えてください。

ファーストキャリアは学校の先生です。工業系大学付属の中学と高校で4年間教鞭をとっていました。担当科目は技術で、ロボティクス工学や情報工学など、マニアックな内容まで教えていました。当時、高校2年生と3年生に進路指導を行っていたのですが、生徒たちに「お前ら、5年後、10年後に自分が何をやっているか考えろ」と言った時、その言葉が自分自身に刺さってしまったんですね(苦笑)。自分は、5年後、10年後に何をやっているんだろう? と考えてしまって。学校の先生のキャリアパスは、9割くらいが新卒から定年まで学校に勤務するというものです。新しいことやりましょう! と内部から色々と発信していたのですが、業界特有の難しさがあったんです。

この状況の中でこのまま勤め続けるのは厳しいなと思い、退職を決意しました。そして、メール配信やマーケティング事業を行っているIT企業に転職したんです。最初は受託開発のプロジェクトをやらせてもらい、業界全体の不況を経て、新しく立ち上がったクラウド事業の主力メンバーに選ばれました。他にも、インフラチームを作ったり、海外展開や、大企業のコンサルティングも経験しました。

その後、2014年に技術顧問としてテモナ社に入り、今年で3年目になりますね。COO兼CTOというポジションで、研究開発から、営業、マーケティングまで見ています。

社員が自走できるように見守る教育

元学校の先生とのことですが、組織作りや社員教育において大切にしていることは何ですか。

弊社は社員の平均年齢が28歳前後と、若い人たちが集まっています。テクニカルチームに関しては約9割が文系出身者で、何も知らずに入ってくる人たちに対して勉強会で教えたり、開発合宿を開催したりしています。教員時代と教える内容はほぼ同じですが、手取り足取り教えるのではなく、魚の釣り方だけは徹底的に教えて、その他のことは一切教えないというポリシーを持って、ハンズオフで見守っています。僕は最初に、社員自ら学んでスキルアップし、会社を良くしていく文化作りを行い、あとはみんなが自走できるようにしました。だから、僕が教えたのは初期のメンバーくらいで、その人たちが後輩に教えていくという流れができあがっています。時には「これまずいんじゃないの?」とか「こうやったらうまくいくんじゃないの?」と、ピンポイントでアドバイスをすることはありますが、どういうアプローチが正しいかをみんなで議論しながら進めています。

中野さんが入社してからの3年で、会社にはどのような変遷がありましたか。

この3年で劇的に変わりましたね。エンジニアの数だけでも、当時は3人くらいしかいなかったのですが、現在は内定者を合わせて17人ほどいます。そして、海外のオフショア拠点ができたことも大きな変化です。ベトナムにメンバーが12人くらいいます。

また、プロジェクトの管理の仕方は、1週間で何をこなすかを決めて実行するという、アジャイル開発のスタイルをとるようになり、コードをレビューする文化もできました。そのほかにも、プログラムのテストを自動で行えるように継続的インテグレーション(CI: Continuous Integration)の仕組みを整えたり、新しい技術を取り入れた開発にもチャレンジしています。

ベトナムに2か月間住み込んで製品開発

海外にオフショア拠点があるのですね。

海外に開発パートナーがいて、人だけ貸してもらい、マネージメントを含めてすべてこちらでやっています。余剰金が出た時に「ちょっと金を預けてくれ、オフショア拠点を作って帰ってくる。製品も開発して持ち帰ってくる」と言って、2か月くらいベトナムに滞在したんです。現地で「初めまして」の状態からスタートし、文化を作って教育し、形にして日本に帰ってきました。

その時に、ベトナムの技術者たちが優秀だと気付き、大学に採用しに行ったんです。大学に足を運び、登壇して会社説明を行ったのですが、準備をする余裕もなかったため日本語の資料を使って説明しました。それでも冒頭の挨拶だけはベトナム語でしようと思い、オフショアのラボのメンバーにベトナム語を教わって、一夜漬けで覚えたんです(笑)。デップチャーイ(ベトナム語で「イケメン」の意味)って指差したりして、結構ふざけた感じで会話していたら、会場では予想以上にウケて、多くの人が希望してくれました。そして、ハノイ工科大学の優秀な学生を4名採用し、日本に連れて帰ってきました。日本語ができる高度IT人材を育てることを目的としてハノイ工科大学で実施されているHEDSPI(ヘドスピ)というプロジェクトに参加していた子たちです。今も一緒に働いてくれています。

▲中野さんに採用され、ベトナムから日本にやってきたHoang Van Phuongさん

海外から人を雇うと戻ってしまう可能性も高いのでは?

それもありだと思っています。例えば、中国では新卒が2年以内に転職しないのはマズイという文化があり、日本とは違い、サラリーマンとして働くよりも独立する人が多いんです。将来の展望の一つとして、彼らが国に帰りたいと希望した時に現地に法人を作り、会社の文化や理念を理解した彼らが現地人社長として活躍する土台を固めたいなと考えています。

退職は悪じゃない。逆に、卒業だから応援したらいいと思っています。弊社の社員には、若い時の価値ある時間を本気で使い、大きなことにチャレンジして、自分の生涯価値や市場価値を高めていってほしいと話しています。

▲オフィスの壁面にはメンバーたちの「夢」が掲げられている。

開発に携わる中で、印象的なエピソードがあれば教えてください。

「ヒキアゲール」を開発した時のことは痛烈に印象に残っています。当時、ラボをベトナムに立ち上げようとしている時だったのですが、開発リーダーと2人でベトナムへ行き、2か月くらい現地に住み込んで設計をしました。ベトナムで遊ぶこともなく、寝ても起きてもベッドで寝転びながら開発の毎日でした(笑)。

メンバーも子どもも、成長を見守ることが喜びになる

▲社員の交流スペース。

仕事をする上で、中野さんが大切にしている信念とは?

ぶれないことです。人の顔色を気にしていたら良いものは作れないので、事実に基づいた調査を行い、そこに対して何が必要か、お客様の声をどう反映するかを真剣に考えながらやるようにしています。

また、メンバー同士で同じ土俵に立たなければ会話は成り立ちません。僕が言ったことをそのままやるのではなく、プライドとプロ意識を持って、ひるまずに意見を言ってほしいですね。

たまに理由がないのに自分はもう駄目だ……と自信をなくしてしまう人もいます。「理由なき自信喪失症候群」と呼んでいるんですけど、そういうふうに言っていた人が、新しいことができるようになったと喜んでいたり、1年前を振り返って「こんなにチープなことやっていたんですね」と言えるようになった時、良かったなあと思いますね。僕のやりがいは、自分で成果を生み出すよりも、みんなが成果を上げることなんです。

自分はPL(プロジェクト・リーダー)、PM(プロジェクト・マネージャー)という立場ですが、現場からは一歩引いた状態で、メンバー主導で開発するのを見守っています。初めて大きなプロジェクトを担うメンバーは、それぞれに挑戦の苦しみがあるようで、うまくいかずに悩んでいること、プレッシャーに感じていることなど、夜中に泣きながら電話してくる社員もいますね。お前らの経験は、3年後、5年後に絶対に会社の資産になるから頑張れ、とひたすら励ましています。

頼もしいですね。中野さんのプロフィールに、「COO(ちょっと、おおきい、おじさん)とCTO(ちょっと、たのしい、おじさん)」と書かれているのが印象的だったのですが、これは?

COO、CTOというラベルがつくと小難しく考えてしまうじゃないですか。体が大きいので、初めて会った時はビビられてしまうこともあるのですが、どちらかと言うとギャグ担当なのでビビらないでねという思いで、こういった表記をしてみました(笑)。自分は、がっちりホールドするよりも見守る系です。もうすぐ三人目の子どもが生まれるのですが、子育ても社員教育も、見守るスタンスはあまり変わらないと思っています。

ストック型のビジネスモデルで地域活性化を目指す

最後に、今後の展望について教えてください。

今、「たまごリピート」の次世代版のリリースに向けて準備を行っています。ディープラーニングなどのAIの領域は我々のプロダクトに対して親和性が高いと思うので、研究開発をしながらもプロダクトに投入していきたいですね。

クライアントに価値あるものを提供したいという思いは今後も常に持ち続けていきたいです。エンジニアの興味でやっているレベルのものではなく、ビジネス価値のあるサービスやツールを提供していくことを愚直にやりたいという思いです。エンジニアとして面白みがあるものが、ビジネス価値を生むかどうかは難しい部分でもあります。弊社ではB to B to CのことをB with B with Cと言うのですが、我々の場合はBのお客様もCのお客様も目の前にいるので、両方を味わいながら仕事ができるのは弊社ならではの贅沢だと感じています。

また、社名である「テモナ」は、「ビジネスと暮らしを“てもなく”(簡単に、たやすく)する」という意味が込められていて、フロー型のビジネモデルをストック型に切り替えるという野心を持ってやっているんです。インターネットの発達によって、都内の商圏だけでなく、地方にいても安定的に仕事をすることができます。地方でストック型の安定したビジネスモデルができれば、雇用も増えて地域が活性化し、好循環が生まれます。そういったことを、僕らが媒介となってできたらいいなと思っています。

佐藤 愛美

学校の先生時代の風格を現在の社員教育に活かし、頼もしい姿勢でメンバーを見守る中野さん。「社員教育は子育てと同じ」という言葉が印象に残りました。また、ストック型ビジネスモデルを社会に根付かせていくという今後の展望も興味深いです。「たまごリピート」のサービスを中心に、全国各地が活性化していく未来が予想できます。

- WRITER PROFILE -

首都圏を中心に取材・執筆を行うフリーライター。福祉業界で働いていた経験を活かし、人の代弁者となり魅力を引き出せるような記事作成を目指している。

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