システムの受託開発に「月額制」という新しいスタイルを持ち込む
はじめに、スタートアップテクノロジーの主な事業内容について教えてください。
Ruby on Railsによるシステム開発やwebサービス開発を行う「テックカンパニー」と、webアプリケーションのUI設計からデザインまでを行う「デザインカンパニー」が、弊社の二本柱です。
「テックカンパニー」ではお客様と一緒にサービスを成長させる受託開発を行っています。弊社のサービスの特徴は、見積もりを取って納品をして終了するのではなく、月額制の受託開発をしていることです。
一般的な見積もり納品型では、お客様に対して機能が豊富で大きなシステムを提案した方が収益を上げやすい傾向があり、自社の利益の追求がお客様の利益に必ずしも結びつかないケースもあります。月額制で受託開発を行う強みは、お客様のためにならない機能やサービスに関して「これは作らないほうがいいですよ」という提案ができることだと思っています。開発が長期に渡ると、お客様が最初の段階でやりたいと考えていた内容が変わってくることがあるので、こまめに提案をしたり要望をくみ取りながら進めていきます。結果、サービスを利用する人々に喜んでもらえる、よりよいサービスを完成させることができるのです。
月額制の受託開発だと、機能を追加する提案だけではなく、そぎ落とす提案もできるのですね。
コンサル、と言ってしまうとおこがましいですが、スタートアップテクノロジーには経験豊富なエンジニアが多く、ひとりひとりが数多くのサービスを見てきているため、やらない方がよいことに関しても見極めることができます。そのため、余計な回り道をすることなく、最終目標までスムーズに到達することが可能になるんです。
また、僕自身が過去にSlerで働いていた経験があり、お客様と会社の間で辛い思いをしたことも今のサービスに活きています。新しい提案をすると追加予算をもらわなければいけないがために必要な機能の実装を諦めなければいけなかったり、いらない機能があっても見積もりに入っているという理由だけで作らざるをえなかったり…ということもありました。こういった業界の習慣に、違和感を抱いていたんです。
やはり、作ったらお客様に喜んでもらいたいじゃないですか。開発を月額制にすることで、本当に必要なサービス開発ができるようになりました。
自分のやりたい方向へ進むため、会社設立
菊本さんのこれまでのご経歴を教えていただけますか?
エンジニアの仕事を始めたのは、たまたま中古のゴルフ屋さんに拾ってもらったことがきっかけでした。社内SEを担当し、当時のWindowsのPOSレジのシステムや、そこに連動するECサイトの運営を行っていました。5、6年ほど続けて、自分のエンジニアとしての技量を試すために転職を決意。その後は、業務系やモバイル関連のSlerの仕事を経験しました。
モバイル関連事業をやっていた企業には6年半ほど在籍していましたが、主に広告配信のシステム開発を担当していました。当時は技術部長だったので、エンジニアの採用やプロジェクト管理なども経験しています。
新規事業の立ち上げを経験したことでスタートアップに興味を持ちはじめ、37歳のときにフリーランスになりました。フリーランス時代は複数社のスタートアップと契約して、なかにはCTOのような立場で働いたこともありました。
その後、フリーランスで契約していた会社にCTOとしてジョインすることになりました。ただ、実際にCTOとして働いていると経営的な部分でCEOと意見が対立することもあり、徐々に「自分で会社やってみたい」と思うようになったんです。
なるほど。そしてスタートアップテクノロジーを立ち上げたのですね。御社のホームページに、「私たちはスタートアップではない」と書かれているのが気になったのですが。
創業当時は「StartupLabo」というRuby on Rails案件専門のクラウドソーシングを立ち上げ、資金調達を考えていた時期もあります。でも、いろいろな人たちと話す中で“世界を変える大きなものを作る”よりも、“身近な人を幸せにできるサービスを作っていきたい”という考えに変わっていったんです。受託開発をして売り上げが立ち始めていたこともあり、投資家の方と相談して、資金調達はしないことにしました。
会社としては違う方向に進みましたが、僕自身、スタートアップは好きですよ。
社畜を助けるアプリを開発し、一世風靡
菊本さんがこれまでに開発に携わったプロジェクトは、どのようなものがありますか?
広告配信のシステム開発をしていた時は、当時国内にほとんどなかったRTB(Real Time Bidding)の仕組みを実現するためのDSP(Demand-Side Platform)、SSP(supply-Side Platform)を独自で開発していました。
過去に「シャチクのミカタ」というアプリをリリースして大きな話題になりましたよね。
そうですね。日本語のネガティブ・ポジティブ判定をして、上司の投稿に自動で「いいね!」をするFacebookアプリだったのですが、ちょうど時代とマッチして、ラジオやテレビにも出演したんですよ(笑)完全にセルフブランディングのために作ってましたね。
多様な人が自由に働けるように、決まりは作らない
「エンジニアに自由を」という理念を掲げていますが、菊本さんが考える自由な働き方とは?
自分が最大限のパフォーマンスを出せる環境で働くことですね。自分自身を律する必要がありますが、パフォーマンスが出せるなら、働く時間や場所を縛る必要はないと思うんです。例えば、いわゆる普通のサラリーマンの9時〜17時で出勤する働き方はエンジニアには合わないのでは? と考え、弊社では出社時間を設けず、いつオフィスに来ても良いというスタンスをとっています。雨が強かったり着ていく服がない日は、Slackに連絡だけ入れて自宅でリモート作業をするのも可能なんです。
とはいっても、僕は寂しがり屋なので(笑)、オフィスには基本的には来て、仕事が終わると社員を飲みに誘ったりしますね。コミュニティの中でわいわいと技術の話をしながら酒を飲んでいる時が好きなんです。
まるでフリーランスのような働き方ですね。
フリーランスでも客先に常駐する場合は、時間通りに出勤して、その会社のルールに沿って働くことになりますよね。正社員の待遇が受けられるわけではないのに縛りがある。フリーランスって意外と自由じゃないなというのが僕の印象です。
フリーランスも正社員も契約の違いがあるだけで、本来はそこに自由の差があるべきではないと思っています。そこで僕は、正社員のメリットとフリーランスのメリットを集約し、正社員でどれだけ自由に働くことができるかを突き詰めたいと考えたんです。
また、完全リモートワークや完全裁量労働制を掲げている会社もありますが、弊社では働き方やライフスタイルを全員一律に決めるようなことはせず、多様な人を受け入れられるようにしたいと考えています。
弊社には、オフィスで働いている人もいますし、上海で働いている人や、世界一周しながら弊社の仕事を受けてくれているフリーランスの人もいます。その人に合った働き方でいいと思うんです。
多様な働き方を認めるとなると、社員との信頼関係も重要になってくるのでは?
お互いに信頼しあえるというのは、自由な働き方の大前提だと思うんです。パフォーマンスを高めるための自由なので、アウトプットに対しての評価も厳しく行っています。
そういうとドライな会社に聞こえるかもしれませんが、寝坊したら「寝坊した」と素直に報告できるような社風でもあるんです。信頼関係を築くためにも「嘘をつかない」というのは、会社のルールのひとつだったりします。
プログラムを書くことより、課題を解決することがエンジニアの仕事
菊本さんが、仕事の中でやりがいを感じるのはどんな時ですか?
人が好きなので、自社サービスでも受託開発でも、僕が作ったものがきっかけで人が喜んでくれるのはうれしいですね。弊社では「半径5メートル以内の人を幸せにする」ことを目標に事業を展開しています。世界に対して大きなインパクトを打ち出さなくても、僕の周りにいる人たちには幸せになってほしいという思いです。
開発のアイデアも、自分自身の周りで困ったことがあったり、身近なところに困っている人がいるから出てきます。プログラムを書くこともエンジニアの仕事ですが、どうやって課題を解決していくかを考えることもエンジニアの仕事なんじゃないかと思うんです。
最後に、未来の技術者たちに向けてメッセージをお願いします。
僕はエンジニアの世界が好きなので、若手のエンジニアの方たちにもこの仕事をもっと楽しんでほしいなと思っています。新しいことを覚えたり、技術のコミュニティに入っていったり、エンジニアならではの楽しさはたくさんあります。お客様の課題を解決して喜んでもらえた時にもやりがいを感じることができます。
労働時間が長いとか、ひたすらパソコンと向き合い続けなければいけないなど、今はしんどさを感じている方も、働きやすい環境を見つけて楽しんでほしいです。