人の欲求を解明し、最適な「おもてなし」を実現。株式会社Sprocket CTO 中田稔

2017.07.06 記者:佐藤 愛美 編集・校正:やつづか えり 撮影・取材サポート:神谷 亮平 インタビュー

今回お話を伺ったのは、株式会社SprocketのCTOを務める中田稔さん。現在、同社では「ウェブ接客ツールSprocket」を開発し、ECサイトや金融企業、メーカー企業など様々な会社のwebサイトに導入しています。

「店舗で行っているような接客をweb上でも可能に」というコンセプトのもと開発・運用されているSprocketには、中田さんのどのような思いが込められているのでしょうか。

誕生秘話をはじめ、中田さんの働き方や、現在注目している技術などについてお聞きしました。

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ゲームの仕組みをweb上の接客に応用

はじめに、中田さんがCTOを務めるSprocketの事業内容について教えてください。

弊社では「Sprocket」というウェブ接客ツールを取り扱っています。企業のサイトにSprocketのタグを入れていただくと、そのサイトにアクセスしたユーザーの行動情報が自動的に弊社側に送信されてくる、というものです。その情報を解析し、企業にフィードバックをすると同時に、コンバージョンを高めるための提案やサポートを行っています。

具体的に「ウェブ接客」とはどのようなものですか

ECサイトであれば商品を買ってもらえるような仕組みづくりであったり、金融関係であれば資料請求に繋がるようなアクションを考えたりします。webではなく実店舗でのショッピングを想像してみてください。実店舗ではお客さんが迷っていると、店員が近づいてきて声をかけてくれますよね。お客さんの要望を聞き出して、適切な案内をしてくれます。

一方、web上ではユーザーがサイトを見て、自分で情報を探して解決します。欲しい情報がどこにあるか分からなくて迷っても、普通は実店舗の店員のような誰かが案内してくれるなんてことはありません。そして、目的を果たせないまま帰ってしまうお客さんもいます。

それは、ユーザーにとっても企業にとっても大きな損失です。そのため、目的を持ってサイトを訪れたユーザーに、企業が適切な情報を出してあげることが重要になります。僕たちがやっているのは、そのサポートなんです。

web上でお客様を案内するというのは、どのような方法を用いるのでしょうか。

▲株式会社 Sprocket のwebサイトより

店員が話しかけるように、画面上にポップアップを出すのが基本的な手法です。始めて訪れたユーザーに対しては、使い方を教えてあげたりもします。ゲームをやっていると、最初にチュートリアルが出てきて、操作方法を教えてくれますよね。実はSprocketではゲームの仕組みを応用して、ユーザーのエンゲージメントを高める工夫をしているんです。

テレビゲームのようなイメージでしょうか。

はい、この仕組みは「ゲーミフィケーション」と呼ばれています。プレイヤーのレベルアップやアイテムのコレクションといった形で成長や成果が可視化されているなど、ゲームには人が熱中する仕掛けが色々と用意されているんです。

これをwebサイト上でも応用できないかと考え出したのが、Sprocketなんです。例えば、ユーザーがコメントを投稿するとレベルが上がっていき、その結果、ユーザーのモチベーションが高まってコミュニティが活性化するというような仕掛けを、web上に組み込むことができます。

なるほど。ユーザーが楽しんだり興味を持ったりする仕掛けで、購入や契約を促していくのですね。

売り上げも大切ですが、本当に大切なことはユーザーの満足度を高め、ファンになってもらうきっかけを作ることだと思っています。欲しくないと思っている人に商品を売りつけるのではなく、そのユーザーが欲しいと思っている情報を適切な形で出して誘導してあげることよう、仕組みを考えています。商品やサービスの利用シーンやスタイルを適切に見せることで、企業やサービスを気に入ってもらい、ユーザーと良い関係を築くことができると思います。

また、実店舗で人間が接客をしていると「この人には声を掛けないほうがいい」と感じ取ることができます。web上であってもユーザーの行動を分析し、出したほうが良い情報、出さなくても良い情報を判別しています。そういったところが、Sprocketの特徴と言えます。

業種ごとに異なる接客方法を考える面白さ

中田さんのこれまでのご経歴を教えてください。

大学院にいた頃、同じ研究室のメンバーと3人で株式会社ゆめみを創業しました。ちょうどiモードが普及し、世の中が大きく変わり始めた2000年のことです。もともとインターネットに興味があったため、一般の消費者にとってより便利な社会を作りたいという思いから、会社を立ち上げることにしたんです。C to C、B to C問わずに事業を展開し、一般消費者向けにモバイルサイトやアプリを作りたい企業をサポートする仕事を15年ほど続けていました。直接一般の消費者へのサービス提供を行う目的で自社サービスも開発していました。

ゆめみの中で新規事業が立ち上がったのが2012年のことです。これが先にご紹介したSprocketです。サービスが軌道に乗り始め、専門的な人材を集めるために会社を分化したほうが良いだろうと決まりました。こうして2014年に株式会社 Sprocketが立ち上がったのです。

僕は2013年度末でゆめみを辞め、SprocketのCTOとしてサービス開発に注力することになりました。現在、ゆめみでは監査役のポジションにいて、時々技術的なサポートを行ったりもしています。

現在、Sprocketでは何名でサービスの運用や開発を行っているのですか。

ゆめみは100名ほど社員がいましたが、Sprocketの社員数は20名未満です。少ない人数でサービスを運用できるように仕組みを整えています。例えば、webサービスを提供しているとハードウェアの故障でトラブルになるケースなんかもあるのですが、自動でリカバリーできるようにしています。他にも生産性を高く保つ仕組みづくりに力を入れて取り組んでいます。苦労しているところでもあり、頑張ってうまくやっているところでもあります。

サービスを運用する上で、クライアントの業種によって接客のパターンがあると思います。

様々なパターンを考えていくのは大変ですが、エンジニアの視点でワクワクするポイントでもあります。業種・業態によってヒットする接客の仕方を社内では「鉄板シナリオ」と呼んでいますが笑、たくさんのお客さんにプラットフォームとして使っていただくことで、接客のノウハウが我々のところに蓄積されていくんです。

「できる・やりたい・やってほしい」が働く幸せにつながる

中田さんがお仕事をする上で大切にしていることとは

自分ができること、自分がやりたいこと、まわりからやってほしいと思われていること。この3つの条件が揃っていると、仕事は一番充実しているのではないでしょうか。あらゆる業種の人が、この3つの要素を揃えた仕事を選べたらいいですね。

また、弊社のエンジニアたちも、きっとそういう仕事がしたくて弊社で働いているのではないかと思っています。技術的なチャレンジもできるし、ゲーミフィケーションや、ユーザーのエンゲージメントを高めるための顧客理解といった挑戦にも面白さがあります。クライアントからも望まれている仕事であるため、とてもやりがいがある仕事だと僕自身は考えていますよ。

「できる・やりたい・やってほしい」を膨らませるためには、自分への投資も必要です。できることを増やすために勉強をすれば、やってほしいという声も増えていくでしょう。実績をある程度示すことができるようになると、周囲からの期待が高まり仕事も増えていくはずです。このように、どんどん自分の価値を発揮していくことこそ、働く幸せだと思います。

現在、注目している技術はありますか。

AI系の技術には注目しています。弊社のエンジニアにも試行錯誤してもらっています。僕個人としてはまだ着手はしていませんが、色々とウォッチしているところです。

あとは、サーバレスアーキテクチャやマイクロサービスアーキテクチャにも興味があり、実践しています。これらのアーキテクチャに沿った開発には、今まで20年以上続いてきたベーシックなwebサービス開発のやり方とは全く異なるノウハウが必要です。うまく設計して導入することで、低コストで高い耐障害性と保守性とスケーラビリティを兼ね備えた生産性の高い仕組みを作ることができます。弊社はそのノウハウを蓄積しています。

データ分析で人を理解し、より豊かな生活を実現したい

現在、初心者向けのITスクールで講師をしているそうですね。

TECH GARDEN SCHOOLという初心者向けのITスクールで講師をしています。講師をしている理由の一つとして、プログラミングをベーシックなスキルとしてあらゆる業種の方に身につけてほしい、という思いがあります。今後、どんな業種であっても自分の業務を効率化したり自動化したりする必要性が高まってくるはずなので、基本的なスキルは身につけておいたほうが良いと思います。また、プログラミングを学ぶことにより、問題解決能力も鍛えられます。

そして、単純にプログラミングが楽しいので、多くの人に知ってほしいという思いがあります。自分のアイデアとスキルがあれば、仮想の世界を自由に作ることができるんです。さらにインターネットで発信することによって、世界中の人々に知ってもらえる可能性があります。

まるで、天地を創造する神様のような感覚ですね(笑)。最初は使える道具は少ないけれど、スキルアップをして少しずつ使える道具を増やせば、自由自在に陸地を作ったり、森や海を作ることもできるんです。そういう楽しさを、多くの人に味わってもらいたいですね。

最後に、今後の展望について教えてください。

僕は元々「人の欲求」に興味があります。人は欲求に基づいて行動します。僕たちは人の行動を観測してデータを取ることはできますが、欲求は観測できません。そこで、人々の行動を観測し分析することで、欲求を解明できないかと思っているんです。欲求を理解し、それを満たすための行動をサポートする。その結果、欲求が満たされて自己実現できる人が増えるのでは と考えています。このようなサポートの仕組みがあれば、社会生活がより楽しくなると思うのです。引き続きこの興味を突き詰め、その成果をSprocketに取り入れていきたいと考えています。

「人の欲求」の解明に向けた取り組み。これは、Sprocketとしても社会に還元できることだと思うので、人々がより楽しく便利に生活できるようにトライしていきたいと思っています。

佐藤 愛美

ひとり一人の欲求を理解し、IT技術を用いて最適なサポートをしたいと考える中田さん。私たちがwebサービスを活用する時に出会う親切な表示や分りやすい案内の裏には、中田さんたちの「人々の生活を楽しく便利にしたい」という優しい思いがあるのかもしれませんね。今後はAIの技術などを取り入れて、より高度な機能が登場することが期待されます。

- WRITER PROFILE -

首都圏を中心に取材・執筆を行うフリーライター。福祉業界で働いていた経験を活かし、人の代弁者となり魅力を引き出せるような記事作成を目指している。

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