ビジネスの担当者もシステムの開発者も、みんなにとっての「嬉しい」をデザインする「匠Method」
まずはじめに、御社のメインプロダクトである「匠Method」の特徴を教えてください。
「匠Method」はビジネス企画の方法論なんです。何かのプロジェクトが始まる時、多くの場合は誰かの熱意やアイデアを土台にしてスタートするものですが、「匠Method」はそういった属人的なものではなく、企画の価値を探求して戦略や業務を組み立てていきます。
具体的には、数枚の絵を使い、価値や要求、業務、活動を見える化する「モデリング」を行うんです。価値を見える化する際は、ステークホルダー(利害関係者)を見える化する「ステークホルダーモデル」、ステークホルダーの価値とプロジェクトの目的を見える化する「価値分析モデル」、自分たちの強みを価値としてデザインする「価値デザインモデル」を使います。
このように、誰が見ても分かる状態を作ると、チームの合意形成を図りやすくなります。
戦略を立てる方法は他にも数多く存在しますが、他所から持ってきたものは絵に描いた餅になりがちですよね。その点、「匠Method」は戦略を実行したら誰が嬉しいのか、戦略自体の価値を検証する仕組みを取り入れているので、チーム全員の「嬉しい」をデザインする手法になっているんです。
例えば「UX戦略」という方法論では、まずペルソナを決めて、どのような行動パターンをとって価値を提供していくかという考え方をしますが、そこは「匠Method」でいうところの「価値のデザイン」の部分になります。「匠Method」ではさらに、業務デザインと活動計画まで落とすことができるので、より広範囲をカバーすることが可能なんです。
どのような企業が「匠Method」を利用しているのですか?
私の場合、情報システムの導入プロジェクトで使うことが多いのですが、業種は製造業、広告業界、介護業界、冠婚葬祭業界など様々です。ほとんどはITベンダーではなく、情報システムのユーザー企業ですね。「匠Method」を導入するにあたってライセンスを購入していただいているケースも多いのですが、「匠Method」の手法をまとめた書籍 も発売しているので、方法はすべて公開しています。
また、キャリアデザインや個人のライフデザインを考えていく際にも「匠Method」を活用することができます。たとえば「朝に5分間の余裕があったら何をするか?」といったような日常的なテーマのモデリングも行っています。
幅広い分野に適用できるのですね。
特に最近は、介護事業などのデジタル変革にも貢献しています。IT化が進んでいない業界にシステムを導入し、効率よく業務が行えるようにしているんです。例えば、モバイルで介護記録を付けられるようにしたり、業務連絡をチャットで行えるようにしたり。その他の業界でも応用できるように、サービス化を進めているところです。
田中さんは「匠Method」のどんなところに惹かれたのですか。
ビジネスとITをダイレクトに繋いでいるところですね。技術屋もビジネス視点を持ちやすくなるし、ビジネス側も技術視点を持てるようになっています。これまでは、ビジネス企画が書きあがったら技術者に発注して、プロジェクト管理が動いて……という流れが当たり前だったのですが、この機能はこの戦略のためにある、というのが1枚の資料の上で分かるので、ビジネスとITが近付くことができるんです。
企業とユーザー、両者の思いのミスマッチから感じたこと
田中さんのご経歴を教えてください。
1999年に新卒でソフトウェアの開発会社に入社し、Javaのプロジェクトに入ってwebアプリケーションの開発を行ってきました。4年ほどプログラマーの下積みをして、5年目からプロジェクトマネージャーに昇格。2008年頃にはセールスエンジニアとして、新規案件開拓を担当していました。
その後、クラウド型の営業支援ツールの提供をしているセールスフォース・ドットコムの方と出会い、彼と共に7年ほどセールスフォース関連の仕事をしていました。その方には今もお世話になっています。
匠BusinessPlaceの代表の萩本に出会ったのは、匠道場という「匠Method」の勉強会でのことです。そこで2年ほど勉強し、その流れで2015年に現在の会社に入社したんです。
田中さんが過去に開発に携わった中で、特に思い入れのあるサービスやプロダクトがあれば教えてください。
いちばん思い入れがあるのは、前職での超大手企業のコールセンターシステムの開発です。これは、初めてプロジェクト管理をした案件だったので、とても印象深く覚えています。それまではメンバーのひとりとしてプログラマーをしていたので、いきなり大きなプロジェクトの管理を任され、驚きました(笑)。
それから、金融系のシミュレーションシステムをほぼ一人で作った経験もあります。ソケット通信などを使うかなり低レイヤーの開発だったのですが、面白かったですね。
田中さんは前職の頃からアジャイル開発に傾倒してきたと伺いました。
前職は創設30年の会社だったのですが、アジャイルを持ち込んだ時、従業員に説明するのが結構大変でした(苦笑)。しかし、お客様にアジャイルの話をすると、ほぼ100%、アジャイルが良いと言ってくださるんですよね。そのことから、世の中はアジャイルを求めているのに、システムベンダーが自分たちの領域を守るためにウォーターフォール型を維持しようとしているのではないかと感じました。肝心のユーザーさんたちのビジネスは何も変わらず、使いにくいものを導入されて、不具合が起こるとお金がかかる。そういった従来の仕組みがIT業界全体のイメージを悪くしているような気もしました。
ユーザーの無駄な業務を省き、統合することで業務プロセスも変わってきます。そういうところを「匠Method」で調整し、うまくコンサルができれば価値のあるシステム導入ができると思っています。
現在はどのような業務を担当されていますか。
現在は、「匠Method」の運用や、営業管理、顧客管理等を行っています。また、セールスフォースを導入した企業を対象に「匠Method for Salesforce」という手法を書きまとめ、日々その実践をしています。
時代に合わせ、会社や働き方は変わっていくべき
田中さんが仕事をする上で大切にしている信念とは?
僕は、仕事とプライベートをはっきり分けるとストレスになってしまうので、働きたいときに働き、休みたいときに休むという感覚を大切にしています。多くの人が、仕事とプライベートを無理に分けて苦しくなっているので、辛いと感じた時に休む感覚を普及させていきたいなと思っています。
それから、ITの世界で働く人々にとっては、個人同士の繋がりがとても重要になってきています。個人の繋がりから新しいアイデアやサービスが誕生することが当たり前になる時代がもうすぐやってくるのではないでしょうか。そうなった時、従来の会社組織や出社という概念は変化していくべきだと思っています。
やりがいを感じるのはどんな時ですか。
お客様から感謝の言葉をいただいた時ですね。もうひとつは、年に数回開催しているセミナーイベントで、参加者の方から「よかった」と言われると達成感を感じます。先日開催したイベントにも30人の方が申し込んでくださって、当日に飛び入りで参加してくださった方もいました。
夢とスキルをセットで考える
現在注目している技術があれば教えてください。
やはりAIですね。いずれはAIの時代が来ると思っていましたが、自分の予想よりも3年くらい早く来てしまいました。AIはモデリングのサポーター役として「匠Method」を実践する際にも応用できると考えています。しかし、すべてを任せることはできないので、言葉を作ったりするのは人間がやらなくてはいけないでしょう。たとえAIが価値のモデルを正しく描いても、人間は満足しないのではないでしょうか。価値は感じる部分なので、いくらAIが正しい判断をしたとしても、人間は簡単に割り切れないはずです。今後、AI時代が到来した時、人間としてどうあるべきかは興味深いテーマです。
最後に、田中さんの今後の展望を教えてください。
「匠Method」をやっていく上でスキルアップはしていきたいと思っています。並行して、開発能力を失わないようにしたいですね。新しい技術をずっと追いかけながら、ビジネスにどう活用するかに着目し続けたいと思います。
また、やりたいことを思い描くだけで終わらず、どうやって実現するところまで持っていくのか、人の夢とスキルとを、セットにして考えていきたいですね。