法律×AI。テクノロジーですべての法務サービスをより多くの顧客へ。 GVA TECH株式会社 CTO 本田勝寛

2017.09.25 記者:落合 真彩 編集・校正:やつづか えり 撮影・取材サポート:神谷 亮平 インタビュー

今回お話を伺ったのは、リーガルテックの分野でシステム開発に挑む、GVA TECH株式会社CTOの本田勝寛さんです。現在同社では、AIを使って法律業務を最適化させることを目指し、「AI-CON」というサービスを開発中。これまでもスタートアップ企業などで活躍してきた本田さんが、法律業界の、超アーリーフェーズの企業に飛び込んだのは、同社代表・山本俊さんの強い思いに共感したからでした。2人が抱く、サービス開発への共通の思いとは?

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AIを使って法律業務を最適化する

はじめにGVA TECH株式会社の事業内容とサービスについて教えてください。

GVA TECH株式会社は、テクノロジーによってすべての法律業務を最適化することをミッションとした会社です。その中で今は「AI-CON(アイコン)」というサービスを開発し、AIを使って契約書業務を効率化させることを目指しています。

代表の山本さんにお聞きします。普段は弁護士業をされていますが、どういう背景があって「AI-CON」を構想されたのでしょうか?

山本さん:現状の法律業界の課題を体感したことからです。事務所で働いている弁護士は、成長すると給料が上がりますよね。でも、やっていることは新人とあまり変わらなくて、契約書の誤字脱字チェックまでしている。その他にも、比較的簡単な業務を、新人とベテランが同じように行っているんです。

つまり、業務の特質や難易度と、その人の単価が合っていないことがあるんですね。そこを最適化できないかなと思ったんです。簡単な業務を自動化していけば、今よりも低コストでできるのではないかと。そうしたらより多くの方が利用できますし、弁護士の負担が軽減されて、今まで行き届かなかったよりビジネスに踏み込んだサービスなどもできるようになるので、企業の法律業務の課題などを解決できるんじゃないかなと思うんですよね。

ジョインを決めたのは、社長の本気さとプロダクトの面白さ

本田さんのご経歴を教えてください。

新卒ではエンジニアではなく総合商社に入り、経営企画の部署で、経営方針の作成や、営業案件の決裁などをやっていました。それはいわゆる「超上流」の仕事だったわけですが、僕はもっと泥臭く、何かを自分で作って売るところまでやりたいと思ったので、退社してフリーエンジニアになりました。

学生時代にもホームページなどを作っていたことと、ビジネス的にも人件費しかかからないというメリットがあったので、エンジニアを選んで、実際にシステムを受託したり、自分でSNSを作ったりしながら技術を覚えていきました。

GVA TECH株式会社に転職されるきっかけは何だったのでしょうか?

前職では、創業メンバーの後に初めて入社したエンジニアとして、企画・設計・開発・運用はもちろん、リーダー・ディレクション・マネジメント・カスタマーサクセスなど、様々な経験をさせていただきました。それまで中心となって作っていたサービスが、ある程度方向性が見えてきた頃、会社としてはまだまだ新規事業的な扱いのサービスについて、これ以上人件費もかけられない中で誰がエンジニアリングをするか、という話になり、僕を選んで頂いたんですよね。

でも僕は、そのまま気の知れた仲間と新規事業をやるよりも、もっと自分が責任を持って、会社のPL(損益計算書)や資金調達にも影響を及ぼすような立場にいたいと思いました。そこで、もっとアーリーフェーズのスタートアップにCTOとして参画できないかと考えていたときに、共通の知り合いを通じて山本と知り合い、2017年の9月にジョインしました。会ってから決めるまでは1週間程度でしたね。一度飲みに行って、深く話しあい、即決でした(笑)

前職もスタートアップだと思いますが、もっとアーリーなところにと?

そうですね。本当にゼロイチのフェーズです。僕がここにジョインを決めたのは、将来的なプロダクトとしての面白さもありますが、社長が本気だったということが大きいですね。システム開発の知識もないのに開発会社を2社使い、身銭を切って作ろうとしていたんですよ。本当に作りたいものがあるんだなと、本気さを感じたので、じゃあ僕も本気でやろうと思って。

会社とサービスのために働くことで、自分にも返ってくる

今の業務内容を教えてください。

今まで外注していたシステムの内製化を進めているところです。webとAIとそれぞれ別の開発会社に委託していたのですが、web側は内製化が完了して僕の方で全部引き取ることになったので、これからはもうガツガツ開発していこうかなと。AI側も内製化を進めながら、エンジニアの採用とこれからの技術選定、開発ロードマップを整理しているところですね。

さまざまな業界を経験した本田さんが、仕事に対して大事にしていることは何ですか?

会社とサービスのために働くということを大事にしています。具体的には、技術的な自己満足で仕事をせず、ちゃんと結果を残すことですね。自分の好みで作りたいものを作りたいように開発するのではなく、プロとして、会社の業績やサービスを伸ばさないといけないという意識で働いています。そしてそれが巡り巡って、自分のところに返ってくるとは思っていますね。

これまでの仕事で最も印象に残っていることは何ですか?

前職の頃は、サービスも会社の考え方も好きだったし、お客様もいい人が多くて、携わっているメンバーも一丸となって頑張っていました。その中でいいプロダクトをつくることに注力する経験ができたのは、一番大きかったですね。

ビジネスの知見を持つ個人と企業をマッチングするプラットフォームを開発していたのですが、カスタマーサクセスなど、開発以外のこともやりました。

本当にずっと、「どうやったら会社を早く成長させられるか」を考えていましたね。結果的に売り上げは10倍以上に伸びました。新規事業的な扱いのサービスについても、3ヵ月で2倍以上に伸びました。もちろんそれは僕だけの力ではないですし、みんなで頑張ったからできたことだと思います。非常にいい経験をさせてもらいました。

そういった経験が、今に生きていると感じる部分はありますか?

技術的には、内製化に向けて動いている段階なのでまだまだですが、「オーナーシップを持って動く」という経験は役に立っていると思います。

具体的には、「自分で目標を立てる」「先頭をリードする」「何をやるか、何をやらないかを自分で判断する」「周りに対して説明責任を果たす」という4点。これをしていくことで、成功しても失敗しても言い訳せずに自分の責任としてとらえられますし、質の良いPDCAを回すことができると感じています。

組織づくりの肝は「スピード」「チーム」「サービスの最適化」

今仕事をしていて一番やりがいを感じるのはどんな時ですか?

やっぱり結果が出た時ですね。結果というのは、数字として跳ね返ってくるものです。具体的に数字がどれだけ改善したか、会社がどれだけグロースしたか、というところが数字として出てくると、とてもやりがいを感じますね。もちろん「ありがとう」と言われることも嬉しいのですが、その結果、サービスや会社が成長していなかったら、結局意味はないと思うので。どれだけ具体的に成果を出せるかということに力を入れています。

9月にジョインして、もう成果が出ているのですか?

プロダクトの成長という意味ではないのですが、エンジニアの採用は徐々に結果が出てきています。9月は孤軍奮闘な状況でしたが、10月からは業務委託含めて、サービスを作れるエンジニアが5名になっています。

採用する人材については、どう考えていますか?

当然、弊社のサービスに共感してくれることが前提になります。その上で、CTOの役割は、組織におけるアウトプットの最大化だと思っていて、そのベースになるのは個人におけるアウトプットの最大化です。

具体的には、個人の「やりたいこと」、組織の「やるべきこと」、個人の「できること」の3つの円があって、その3つが重なる真ん中の部分を大きくしていくことが大切なんです。「できること」は教育して伸ばし、「やりたいこと」と「やるべきこと」をすり合わせるのがマネジャーの仕事。だから採用で見るポイントは、この先真ん中の部分をどれだけ大きくできる人なのか、という部分ですね。

▲真ん中の部分(黒色の領域)を大きくしていくことが大切。

「やりたいこと」が離れたところにある人はやっぱり難しいし、新しいことに対して貪欲に学ぶことができない人だと「できること」が膨らんでいかない。逆に、今現在「できること」は少ないけど、「やりたいこと」と「やるべきこと」のすり合わせがうまくいきそうな人であれば、可能性はあります。そのあたりを総合的に見るようにしていますね。

組織作りという点ではどのような工夫があるのでしょうか?

僕は、細かく指示を出すいわゆるマイクロマネジメント型のマネジメントはしません。マイクロマネジメントをしてしまうと、言われたことだけを中心にこなしてしまい、サービスを成長させるという視点では十分ではないと考えています。基本的に僕が採用するときは、自分よりも優秀な部分があることを前提に採用していますので、細かなところは権限を持ってやってもらうようにしています。もちろん、丸投げするというわけではありませんが、オーナーシップを持たせたり、自分で判断させたりということが必要だと思いますね。みんなに共通して意識してもらいたいこととしては、行動面のバリューを3つ掲げています。それは「スピード」と「チーム」と「サービスの最適化」。

スタートアップの利点は、意思決定の速さと、各々がオーナーシップや権限を持ちながら走れることだと思うので、まず「スピード」は大事にしていきたい。

「チーム」については、他責にしないで1つのチームとして勝とうという意味です。僕はオーナーシップを持って取り組んで失敗したことについては、称賛すべきと考えています。また、スタートアップは一人ひとりの権限が大きく、担当業務の範囲が広くて重複は少ないので、なかなか情報共有しにくい部分がある。成功、失敗を問わず共有することでチームとして勝てるようにします。

最後は「サービスの最適化」ですね。エンジニアなので、流行っている技術や新しい技術を入れたいという気持ちもわかるんですけど、ちゃんとエンドユーザーが幸せになるような視点で技術を取り入れて、サービスを最適化できることが大切です。

ユーザーの悩みを解決するために技術を使える集団にしたい

本田さんが今注目している技術は?

機械学習関連の、いろんなライブラリを見ています。どう実装されているのか、そのライブラリができた背景は何か、という部分を考えながら見ています。

僕の場合は、技術というよりも、サービスについて考えている方が多いですね。海外では「Full Story」など、色々面白いサービスがあると思いますが、そういうサービスの概念をどうやって発想し、実現して、マネタイズしているのか、といったことです。もっとそういう新しいサービスが日本から出てきてくれるとうれしいですし、作りたいと思っています。

GVA TECHとしての今後の展望をお聞かせください。

まず「AI-CON」ですが、Webのクローズドベータ版は既にGVA法律事務所にリリースしています。今はAIのシステムとのつなぎ込みを進めていて、今後はそこも内製化していく予定です。

「AI-CON」というサービスは、狭義の意味での競合はまだいないんですよね。技術的にもチャレンジングな部分が多いですが、これを実現させることで将来的にすそ野が広がっていくものでもあり、非常におもしろい分野だと思っています。

あとは、良い組織づくりに挑戦していきたいですね。GVA TECHは、代表が法律業務をやるうえでの悩みや課題、それを通したお客さんの悩みなどを正確に把握しているので、それを開発者都合でつぶしたくはない。ちゃんとユーザーの悩みを解決するために技術を使える集団にしたいんです。

本当にプロダクトが大事なビジネスなので、ユーザーファーストな人たちが、本気で考えて、成長させていく組織をつくりたい。そのためには技術開発の部分も大事ですし、いい人を採用できるかというところも非常に重要です。最終的には、スピードとチームとサービスの最適化を大事にしている組織として、GVA TECHという会社が一番に挙がるようなポジションを目指していきたいですね。

落合 真彩

法律業界では、事務的な作業もまだまだ人の手で行われていることが多いのですが、そこにテクノロジーを入れるためには、超えるべきさまざまな障壁があるそうです。決して簡単ではないチャレンジですが、「AI-CON」が弁護士さんや法務担当者の負担を軽減してくれれば、さらに人の強みを発揮しやすくなるはず。今後このサービスがどのように進化していくのか、注目したいですね。

- WRITER PROFILE -

2013年筑波大学体育専門学群卒業。株式会社明光ネットワークジャパン(「明光義塾」本部)を経て、2016年よりフリー。ビジネスや教育など、多ジャンルの記事・書籍に携わる。 ライター業のかたわら、ブラジル発祥のスポーツ「フレスコボール」選手として、国内大会女子部門連覇中(2016~2017)。 1990年神奈川県生まれ。

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