「公平かつ信頼性の高い情報を提供するために」NewsPicks流の事業戦略とエンジニア組織の作り方。株式会社ニューズピックス CTO 杉浦正明

2017.10.26 記者:佐藤 愛美 編集・校正:やつづか えり 撮影・取材サポート:安田 真理 ・ 神谷 亮平 インタビュー

「NewsPicks(ニューズピックス)」は、ニュースと共に各業界の有識者たちのコメントを読むことで、ニュースを多角的に読み解くことができるソーシャル機能も兼ね備えた、経済ニュースプラットフォームです。

今回お話を伺ったのは、株式会社ニューズピックスの取締役CTOである杉浦正明さん。過去には金融系取引システムを作る企業で高速為替取引システムの開発リーダーや、社内SNSを製作するベンチャー企業でCTOを務めるなど、様々なフェーズの会社で経験を積み重ねてきました。

順調に成長を遂げている「NewsPicks」の仕掛けや開発秘話についてお話を伺いました。

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ニュースを多面的に理解し、かつフェアに情報交換ができるプラットフォームが欲しかった

▲NewsPicksアプリの画面(画像提供元:株式会社ニューズピックス

はじめに、「NewsPicks」の特徴について簡単に教えてください。

「NewsPicks」は経済情報に特化した経済ニュースプラットフォームです。最大の特徴は、有識者の方々がニュースに対して多様なコメントをつけてくれるところにあります。気になる有識者をフォローすることで、彼らがピックアップしたおすすめの記事が自分のフィードに流れてくるので、様々なニュースを発見することができます。また、彼らが投稿したコメントと共にニュースを読むことで、ニュースに対して理解を深めることができます。

最近はフジテレビとコラボをした新しい経済ニュース番組「LivePicks(ライブピックス)」などの動画配信も行っており、文章による記事という形にとどまらず、幅広くコンテンツを提供しています。

有識者の方々の意見を読むことで、ひとつのニュースについて様々な角度から考えることができそうですね。

正しいニュースを正しく伝えようという姿勢は、僕がニューズピックス社に惹かれたきっかけでもあります。以前の勤め先ではFXのシステムを開発していましたが、情報格差によって人生が終わるほど深刻な損をしてしまう人々の姿も見てきました。それが当時のジレンマであり、情報格差によって人生が終わってしまうことがない世界を作りたいと考えたのです。

テレビや新聞、ネットのメディアは、上から落ちてきたものを下に流すように一方通行のものが多かったので、ひとつのニュースにおける表面的な事実だけではなく、そのニュースが本質的に持つ意味や影響など、その裏にある情報も含め、フェアに情報交換することができるプラットフォームがあったらいいなと思っていました。

コンテンツの質を高め、好循環を生む

「NewsPicks」の成長を支える核となるものは何ですか?

コンテンツの質をひたすら追い求めることです。短期的な閲覧数を稼ぐために安い記事を量産するのではなく、コストをかけて良質な記事を仕上げるようにしてきました。そのため最初の頃は赤字でしたが、ひたすらコンテンツの質を追い求めてきた結果、徐々に有料会員数が増え、それに伴い良質なコメントも増えていったのです。

質よりもバズを狙えば、コンテンツの質は落ち、必然的にコンテンツにお金を払いたいと思ってくれるユーザーの方も減ります。質の高いコンテンツとコメントが集積され、新たに有料会員となってくれる。この循環ができあがるまで、約3年間かかりました。

御社は広告配信システムも内製しているのですか。

そうなんです。マネタイズの手段を外注してしまうのは、メディアが収益を出せずに苦しむ理由の一つです。外注することにより、アクセス数を増やすことが第一目的になり、コンテンツの質を保つことが難しくなってしまいます。

僕たちは真逆の考え方で、広告単価や制御権も自分たちで持っています。それにより、コンテンツの質を高めることにフォーカスでき、広告主にきちんとブランディングの効果を実感していただけるようなプレミアムな枠として認めていただけるようになります。

3つの事業の繋がりで経済を循環させる

▲LivePicksアプリの画面(画像提供元:株式会社ニューズピックス)

「NewsPicks」は動画のコンテンツも配信しているのですね。

今年の5月からスタートした「LivePicks」では、視聴者はライブ配信中にリアクションやコメントを投稿することができます。経済ニュースと聞くと堅くて難解なイメージがありますが、視聴者もコメント投稿機能を介して番組に参加できるなど、インタラクティブ性が高く面白い経済ニュースを作ることで、より多くの人が経済に興味を持つ取っ掛かりになったらいいなという思いでやっています。

また、「NewsPicksアカデミア」という有料サービスも2017年4月から提供を開始しています。これは「リーダーの教養」をコンセプトに、「教養×実学×行動」による新たな価値の創出を目的としていて、「NewsPicks」のオリジナル書籍を会員の皆さまに毎月お届けしたり、各界のトップリーダー達をゲストに招いてイベントや講義を行ったりしています。同じ立場のビジネスパーソンとリアルな場を共有し、ディスカッションする場にもなっています。

僕たちが現在注力しているのは、メディアと教育と交流を繋げる場を提供することです。ニュースを読んで情報を把握し、「LivePicks」を見てより深く内容を理解する。さらに「アカデミア」を活用し、議論した上で実際に活かす。場合によっては新たな仲間との出会いになり、協業や働く場の提供にも繋がります。

よく引き合いに出すのは、福沢諭吉の三大事業です。彼は、時事新報というメディアと、慶應大学、交詢社という社交場を作りました。メディアで広く情報共有を行い、大学で経済人を養成した上で、その人たちを社交場に繋げて明治の経済を循環させたのです。それを21世紀でも作るのが、我々の目指すところです。

インターネットの環境があれば、遠隔でも講義を受けることができたり、多くの人と交流することができますね。

ARやVRが発展すれば、時間や場所の制約がなくなり、東京にいなくても最先端の情報を入手することができます。昼間は働いて、夜に講義を受けることもできます。24時間、実際に大学へ行くのと同じ感覚で知識をアップデートできるのです。また、実際に会える場所へ出向かなくても交流はできるし、実際に会えば関係性はより強固なものになるはずです。

ニューズピックスでは、健全なコミュニティの場を作ってくれるビジネスパーソンをいかに増やすか、いかに「NewsPicks」を深く使ってもらえるかに挑戦しているところです。すべては、質の高いコンテンツや情報や知識を提供したいという思いに繋がっていくのです。

「月に行きたいエンジニア」をいかに多く集めるかが飛躍の鍵

ニューズピックス流の開発プロセスについて教えてください。

質を上げるためにどのような優先順位をつけるかにフォーカスしてきました。開発チームが大きくなるに伴い、色々な要望が出てきます。全部やらなくてはいけないけれど、どの順番でやっていくかでサービスの成長速度が決まります。

上がってくる開発要望を優先順に並べ、優先度が高い順にやっていくという開発の方法をとっています。

開発時の印象的なエピソードがあれば教えてください。

広告配信のためのアドサーバーを開発していた時は、3か月ほど会社に来ずに、知り合いの企業から間借りした作業場に通い続け、完全に集中して仕事をしていました。週に一度の経営会議の日は会社に来ていたのですが、会議が終わったらまた作業場に戻る……といった生活をしていました(笑)。

このような働き方が許されたのは、僕がわがままだったからというわけではありません。どのような働き方をすることが会社にとってベストパフォーマンスを出せるかということを、各自が責任をもって考える必要があるからです。

この時は、短期間で広告の売り上げを立てなければいけないというシビアな時期でした。そのため、会社としては少しでも早く開発を完了するために、僕が集中して作業をすることが最適な選択だったのです。

弊社では、個々人が自ら考え、最高のパフォーマンスを発揮する働き方ができるように「自由主義」を掲げています。自由主義だから自分勝手にどのような働き方をしてもいい、というわけではなく、チーム全体、会社全体を見て、どういう働き方をすべきか考え、ベストな選択をとることが大切ということです。

CTOとして、エンジニアの組織作りについてどのような考えを持っていますか。

技術ありきでモノを作るというよりも、目指したい世界を共有して技術を自分たちで生み出していくことが重要ではないかと思っています。ロケットを開発していたらたまたま月に行けたのではなく、月に行きたいからロケットの開発を頑張ったように。

「月に行きたいエンジニア」をたくさん集めることにより、技術面でも飛躍することができるのではないでしょうか。つまり、エンジニアの志向として「既存の難しいものを理解したい」という知識欲は賞賛すべきですが、それで終わるのではなく、困難な課題に立ち向かい、世にないものを開発できるかが重要だと考えています。課題を乗り越えられるかどうかは、ミッションや目標を共有できるかどうかに懸かっています。そのためにも、トップの目標とエンジニアを僕がうまく繋げるようにしています。

日本から世界へ。情報格差のない社会の実現を目指す。

これから技術者を目指す人たちに向けてアドバイスをいただけますか。

僕は新卒の時に大企業に入社し、自分には合わないなと感じて方向転換をしました。ちょっと働いてみると分かることがあるので、まずは経験してみることが大切だと思います。ファーストキャリアを心配する学生さんもいますが、自分のやりたいことがしっかりしていれば、ファーストキャリアは問題ではありません。

そして、身の回りの「おかしいな」と感じたことを是とせず、疑問を持ち、解決に導くことで、自分が望む未来に繋がってくるのだと思います。

最後に、杉浦さんの今後の目標について教えてください。

世の中の情報格差をなくし、良い世界にしたいと思っています。一気に変えていくのは難しいので、少しずつ変えていくことを目標としています。

そのためにも、公平で信頼性の高い情報を多くの人に伝え、みんなが正しく判断できる場を提供していきたいですね。

今「NewsPicks」でやっていることが、日本全体から世界全体に広がり、少しでも良い影響を与えていけたら嬉しいです。

佐藤 愛美

杉浦さんのお話を聞いたことで、これまで堅い印象を持っていた経済情報が、ぐっと身近なものになりました。また、杉浦さんの過去の経験から生まれた「正しい情報を正しく伝えたい」という信念が基盤にあるからこそ、「NewsPicks」のサービスの質は向上し続けているように思います。

杉浦さんたちの活躍が、日本だけにとどまらず世界にも良い影響を与えていくことを楽しみにしています。

- WRITER PROFILE -

首都圏を中心に取材・執筆を行うフリーライター。福祉業界で働いていた経験を活かし、人の代弁者となり魅力を引き出せるような記事作成を目指している。

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