自らの経験を役立てる場所を開拓し続けたい Emotion Tech技術顧問 林優一

2017.03.10 記者:やつづかえり 撮影・取材サポート:株式会社Emotion Tech広報部 インタビュー

ウェブ制作会社LIG(リグ)でフロントエンドチームを立ち上げ、CTOを務めた後、2016年末に独立した林優一さん。現在は株式会社Emotion Techの技術顧問を始め、複数の領域で活躍されています。

フリーランスとして複数の会社に関わることに価値を感じているという林さんに、技術顧問としての役割や仕事のモチベーションについて伺いました。

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技術顧問としてまずやったのは、対話による課題の把握

昨年末にLIGを退職されて、今はどんなお仕事をされているのか教えてください。

フリーランスという立場で、今年1月からEmotion Techの技術顧問をしています。他にLIGにいたときからやっているライフイズテック株式会社の留学CTO(ライフイズテック独自の制度で、社外のメンバーがCTOの仕事を部分的に担う)や、LIGの技術的なサポートなども続けています。

技術顧問というのは、どういう役割ですか?

Emotion Techは、人の感情を数値化する技術を元に、クラウド型のマーケティングツールを提供している会社です。そのプロダクトをさらに良いものにしていくために、価値の再定義や機能開発の優先順位付けをしたり、実装も一部手伝ったり、色々なことをやっています。技術顧問がやるべきことが決まっているわけではなくて、私としては、組織全体を円滑にし、楽しく仕事ができるようにしたいんです。今の組織に足りない部分や課題があるところにスッと入っていって、できることをするという感じですね。

足りない部分や課題というのは、どのように把握するのですか?

まずは対話ですね。経営者、営業、エンジニア、デザイナー……、社内の色々な人とお話して、今どういうスキルを持った人がいて何が足りないのかが見えてきたら、「今こういうことで困ってませんか? こういう形でやってみませんか?」とか「この部分を自分がやってみますよ」とお話して、了解が得られればやってみる、という形で進めています。

経営者とエンジニアの間に立ち、意識のすり合わせを行う

具体的には、どんな課題解決に取り組まれていますか?

例えば、経営側が持っているビジョンはすごくいいものでも、それをプロダクトの形にするのには実装にかかる時間やコストなどの制約があり、エンジニアとしてはどうしても、「こういう形でしかできないだろうな」と妥協のある設計をしてしまうようなことがあるんですね。

本来は「このプロダクトが本当に目指すべきところはどこなのか」という共通のビジョンと、そこに向かうために今の落としどころはどこなのか、目星をつけて開発をしていくための軸が必要です。それが明確でないと、経営者、営業、エンジニア、デザイナー、それぞれが思っているプロダクトのイメージに差異ができて、せっかく作っても手戻りがあったり、納期が延びてしまったりという問題が発生するわけです。

今やっているのは、軸となるものを持つための交通整理みたいなことです。私がそれぞれに話を聞きに行き、ホワイトボードやノートに具体的に目に見える形にまとめ、それを「どうでしょう?」と見てもらいながら、すり合わせをしていっています。

経営と開発の間に立てる人というのは、重要ですよね。

すでに動いているプロダクトがあって、それぞれ仕事を持っている中で、みんなで合宿みたいなことをして、価値観をすり合わせるというのもなかなか難しいので、そのお手伝いができるというのは大きいと思いますね。まだ私が入って日が浅いので、しがらみもなく、ある程度客観的に、自由に話ができますし。

機能の必要性が明確になればエンジニアのモチベーションも上がる

みんなの目線を合わせるための工夫や、活用しているツールなどはありますか?

新しい機能を提案するときは、これを使う人はどういうことに悩んでいて、このプロダクトでどういう作業をして、その結果どういう形になり、その人は何を思うのか……、必ず物語を作ります。そうすると、最低限必要な機能が絞られて、優先順位や、各機能の意味も明確になるんですね。

また、「プロダクト・バリュー・プロポジション」というフレームワークを使って、プロダクト全体の価値の再定義をしようとしているところです。

Strategyzerより引用。

上の図にある右側の円には、「ペルソナ」と呼ばれる、想定しているユーザーのやりたいこと、悩みや課題、「こうなったらいいな」と思っているようなことを書き込んでいきます。お客さんが実際に言っていたこと、「きっとこういうことを求めているんだろうな」と想像できること、どんどん情報を集めて、ここに付箋で貼っていくんです。

左側はプロダクトについてです。今提供している機能と、それによってユーザーの希望がかなえられていること、あるいは悩みや課題を解消していること、それぞれを書き出していきます。

このような作業によって、我々はお客様のニーズに答えるものを提供できているのか、プロダクトのポジション、つまり今の状況を目に見える形で確認できるんです。その上で、どの機能を優先して作っていくか、みんなで話し合って決めていきます。会議をするときも、「自分はこう思う」ではなく、必ず「ペルソナ」を中心に、「この人はどう思うのか」という議論の仕方にシフトするようにしています。あと、この段階では技術的な制約なんかを一切忘れて考えるということも重要ですね。

実際に作る段階では、技術的なこともサポートされるんですか?

はい。プロダクトの現状を把握し、実現すべきことが明確になったら、次はエンジニア目線で、技術的な検証や、現実路線での工数の見積もりなんかが必要です。そうすると、お金やビジネスの問題にも関わるので、私は経営と開発の中間に入って、どちらも落とさないようにという形で考えて折衷案を作っていく仲介みたいな役割になりますね。

「楽しく仕事ができる組織にしたい」ということですが、林さんの活動によって変わってきましたか?

まだそこまで成果が出ていないので、正直これからですね。でも、「今までちょっとふわっとしていた部分が、整理されてきたね」という空気感にはなってきています。開発する機能の必要性を明確にすることで、エンジニアのモチベーションも変わるんです。作っても使われないということになると、モチベーションは下がりますからね。

留学CTOで気づいた、複数社の仕事をするメリット

会社を辞めてフリーランスになられたのは、なぜですか?

勉強会なんかで社外の人と話すと、特にフロントエンド寄りの技術や、エンジニアの採用なんかで悩んでいる人が、世の中にはたくさんいるんだということが分かってきたんです。いろいろ相談も受けるうちに、もっといろんな会社で仕事をしたら、自分も勉強になるし、Win-Winなんじゃないかと思うようになって。それで会社にお願いして、昨年5月頃からライフイズテックで留学CTOとしてちょこちょことお手伝いを始めました。

そうすると、自分が仲介役になって双方の課題を共有できるんですね。LIGが抱えた問題と、それを解決したアプローチをライフイズテックに持ち込めますし、その逆もあります。「向こうでこういうことがあったから、このプロダクトではそうならないように先に対応しておきましょう」みたいな提案もできる。それをやっていくうちに、こういう働き方がお互いの会社にとって一番効率が良いんじゃないかと思ったので、今の形をとらせてもらった、という経緯です。

Emotion Techの技術顧問になられたのには、どういうきっかけが?

Emotion TechのCTOとは以前に一緒に働いていた時期がありまして、それがきっかけで声をかけていただきました。フロントエンドが得意だったので、その部分で技術的なアドバイスを、というのが期待されていたところだとは思いますが、結果として色々なことを自由にやらせていただいているという……(笑)。

もしかすると、林さんのされたことは、会社の期待以上だったかもしれないですね!「ペルソナ」を定義したり、ユーザーの物語を作ったりというのは、UX(ユーザー・エクスペリエンス)デザインと呼ばれる手法ですよね。組織にUXの考え方を浸透させていくことを目指しているのでしょうか?

私のモチベーションは、単純に“誰かが喜んでくれる”ということだけですね。UXはそれを実現するための、ひとつのフレームでしかないです。自分が役に立てる部分があれば、必ずしもwebである必要もないと思っていますし。

役に立てることがあれば何でもやる、という感じですか?

それに近いですね。自分が解決できることを見つけてやっていきたいです。それを、自分から探しに行くというスタンスでいます。

やつづかえり
LIGは企画力、技術力の双方に長けたウェブ制作会社という印象があり、そのCTOを務めた人であれば、技術へのこだわりは相当のものでは――、そんな予想に反し、林さんは良い意味で技術や職種の枠組みへのこだわりのない方でした。自分がもっと役に立てる働き方を確信してフリーランスになったというエピソードからも、とても潔くて合理的な人だな、と感じました。今後のご活躍も楽しみです!
- WRITER PROFILE -
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』、女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』編集長。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて働き方、ICT、子育てなどをテーマとした記事を執筆しています。2013年に第一子を出産。
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