個人で77個のアプリをリリース。スマホアプリクリエイター西本誠の哲学

2017.03.23 記者:大賀 康寛 撮影・取材サポート:神谷 亮平 インタビュー
個人でiOS、Android合計して、計77個のアプリをリリースしている西本誠さん。 新卒で大手メーカーに入社し新製品企画や営業を担当するが、兼ねてから好きだったスマートフォンアプリ業界に転身。現在はSupership株式会社でエンジニアとして働く一方スマホアプリクリエイターとしても活躍中です。今も個人での開発を続ける西本さんに、スマホアプリ開発の楽しさや開発スタイルなどについて伺いました。
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世間の反応は気にせずどんどん作り、77個のスマホアプリをリリース

これまでにどのようなスマホアプリを開発してきましたか?

多すぎてどれがどれだかわからなくなっていますけど(笑)、AndroidとiOSを合わせて75個くらいのアプリをリリースしています(2017年4月現在、77個)。Amazonの割引商品を検索できるアプリ、webページの表示とHTMLソースを同時に閲覧できるアプリ、ノベルタイプのゲームアプリ、英単語や漢字の学習アプリなど様々です。

すごい数ですね!その中でも特徴的なものやユーザーから反響があったアプリについて教えてください

Amazonの割引商品を検索できるアプリは13ヶ国語にローカライズしています。例えばインドの人から「このアプリのおかげで安い靴下が買えました!」といったフィードバックが届いたりします。

「居酒屋のピンポン」というアプリは画面をタップすると「ピンポン」って鳴るだけのアプリなんですけど。6時間くらいで作ってリリースしたアプリで、アプリ自体のくだらなさもあり、「Appleからリジェクト※1されたんじゃないの?」と皆さんからよく聞かれるんですが、一発通過でした。

ラジオに取り上げられたりとか、ネットCMに使われたりとかしたアプリもあります。NHKの古舘さんの番組で使われるらしくて、連絡がきました。赤ちゃんの名前をサジェストするっていうアプリを出しているんですが、古舘さんの番組で、赤ちゃんの名前がテーマの番組があるみたいで。

すごいですね! 逆に力を入れたけど、反響がイマイチだったアプリはありますか?

そうですね。「この液体は酸性かアルカリ性か?」というクイズを出題するアプリです。大学の頃は教育学部にいたのでそういうものに興味があって。中学時代に酸性とアルカリ性が分からない人が結構いたので、それを覚えられるアプリがあったら面白いな、と。途中から「これ誰も使わないじゃないの?」と思いながらも頑張ってリリースしました。結構こだわって作りこんだんですけど、案の定誰も使ってませんでした(笑)。

反響がなかったとしても、元々期待値が低いので気にしません。とりあえず動いたら出しちゃえ! というタイプなので、「どうせ売れねえだろ」と思っても全て出しています。期待しない分、反響があったらすごく嬉しい。なかったらなかったでOK。僕ガラスの心なので。色んなことに期待しないようにしています。

▲「Amazon割引ショッピングアプリ」。Amazonの割引商品を検索できる。
iOS / Android
▲「居酒屋のピンポン」。画面をタップすると「ピンポン」と音が鳴る。
iOS / Android
▲「赤ちゃんの名前・命名辞典」。約10,000の赤ちゃんの人気の名前を収録。
iOS / Android
▲「幸せになるために」。学園サウンドノベルゲーム。シナリオも全て自作。
iOS / Android

バンド活動との共通点を感じたアプリ開発。遊んでいるうちに技術を身につけた

アプリ開発を始めたきっかけはなんですか?

Xperia X10※2ですね。僕、この見た目の通りですけど大学時代にずっとバンドをやっていて、CD出したりニコニコ動画に上げたりと、世の中に作品を出すのが好きだったんです。Xperiaを持った時に、スマホのアプリも同じだと気づいて。アプリマーケットに作品を出せて、しかも日本だけじゃなくて海外にも届くじゃないですか。それが面白いなーと思ったんです。でも、元々大学では、バイオ系で解剖とかやっていて、卒業後は大手メーカーで営業部に配属されたこともあって、アプリ開発は全くやったことがありませんでした。

具体的にはエンジニアの知識をつけるために、どういうことをされていましたか?

会社が終わったら毎晩のように、渋谷や新宿でやっている勉強会に参加していましたね。一番多い時は週に3〜4回は行っていました。土日もエンジニアの友達と一緒にプログラミングしたりして。趣味としてやっていたので、遊んでいるうちに勉強してた、という感じです。

友達とプログラミング合宿をやろうと、山奥に行ったらネット繋がらなくて「うわ、終わったわ」みたいなこともありました(笑)。その時は本とにらめっこして頑張って、それはそれで集中できて楽しかったですけど。

今も勉強会に参加することがありますか?

今は行かなくなりましたね。勉強会っていろんな知識が集まっている場所だと思うんですけど、やりたいことが明確になってきた分、自分の求めているものとマッチしないものに行っても、移動のコストに見合わないなと思うようになりました。

個人で開発するときは、どんなスタイルでやっているんですか?

僕、ながら作業大好きなんで、土日はYouTube見ながら、酒飲みながら開発するみたいな感じですね。

今は同時に5つ、全く関係ないジャンルのアプリを開発しています。僕は基本的にはシングルタスクなんですけど、たまにはそういうやり方をやってみようかなと。でも、いいところもあり、悪いとこもある。一長一短ですね。1つ1つのアプリの完成が遅くなってくるので、達成感を味わうまでに時間がかかってしまって。1つずつアプリを開発していると、3日おきに達成感を味わえますが、5つ同時だと15日後に一気に来るという感じなので、そこまで駆け抜けるのがしんどい。僕は短距離選手タイプなので。

13ヶ国語に対応しているアプリもあるということでしたが、ひとりでやっているんですか?

オールワンマンです。日本語から英語に自分で翻訳した後、それをGoogle翻訳で各国語に翻訳したりして。アプリを作っている時間よりもコンテンツ作っている時間の方が長いですね。

自由でいるためには、出る杭を打たせないぐらい出ちゃえばいい

お話を伺っていて、エンジニアというよりもクリエイター気質とお見受けしました。

そうですね。ゼロから創り上げることに喜びや感動を覚えるタイプです。スマホアプリに興味を持った時点で、いきなりポンッとスマホにいっても面白いとは思ったんですが、食わず嫌いでやらないのも良くないのかなと、しばらくメーカーでやってみることにしました。それから結構長い間いて、それでもまだスマホのことが好きだから、スマホに全力を注ごうと、Supershipに来ました。本業も趣味も全部スマホでいいや、と。

3年後にはどうなっていたいですか?

将来のことは全く頭にありません。Supershipでの採用面接時にも聞かれて、「すみません、僕3ヶ月以上先のこと考えられないんで」と答えました。

3年後になりたいものって、頑張れば3ヶ月後にはなれちゃうんじゃないですかね。ずっと先のことを考えるよりも、短期的にがむしゃらに頑張った方が早いじゃん、と思うんです。多分、3年後にはもっとデカイこと考えてるはずで、今考える意味はないかなと。

3年後の目標を決めて、それが限界だと決めつけてしまったら、そこに到達したときにはやる気なくなっちゃいますよね。だからこそ、僕はロックが好きなんです。「X JAPAN」とか見てると、「どこまで昇りつめるんだ、あいつら!」と思わせてくれる。ひたすら高みを見せてくれるので、僕も頑張ろうかなと思えるんですよね。

“このインタビューの直ぐ後に、西本さんはYOSHIKIさんの講演を聴きに行かれたとか。本当に好きなんですね!„

メーカーにいらしたときから、そういう格好だったんですか?

そうです。さすがに髪は赤くはなく、キンパくらいでしたが(笑)僕、こんなんでビッグサイトとか幕張メッセとかで、プレゼンターとしてお客さんの前で喋ってたんですよ。お客さんからは評判が良かったんですが、関連企業の社長さんから苦情が入ったりしました。上司からは「クレームが入ったから次からちゃんとしてください」と言われるんですけど、「じゃあ僕が直接話しに行くんで、クレーム言った人が誰なのか教えてください」と答えると、教えてくれなくて(笑)。

入社した頃、会社の中を裸足で歩いていたら本部長に呼び出されたこともあります。僕、北海道から来たんで、暑かったんですよね。「だって暑いんですよ」と必死に訴えていたら、そのうち何も言われなくなりました。

X JAPANのYOSHIKIが「出る杭を打たせないぐらい出ちゃえばいい」って言っていて。

自由で羨ましいと言われることが多いですが、自由でいるにはそれなりの代償が必要なんです。僕は人を見た目で判断するような人が苦手なんですが、こういうヘアスタイルだとそういう人が寄ってこないんですよ。ひとりで開発するというのも同じです。大変な面はありますけど、お金のことなんかでイザコザが起きるのを避けつつ自由にやれるので、いいですよ。

※1 Appleのアプリの審査に通らないこと。公開されているガイドラインを満たすことが求められる。
※2ソニー製のスマートフォン。Xperia X10はXperiaシリーズ初のAndroid OS搭載機。
大賀 康寛

インタビュー当日、西本さんにお話を伺っていて様々な思いが頭を駆け巡った。自分と似通っている、傷つきやすい性格、上昇志向にあふれている人間性。THEクリエイターと言えましょう。

作り出すことに命をかけ、そしてそれを楽しんでいる。「楽しくなければ仕事じゃない」今の日本社会へのアンチテーゼともいえるだろう。こんなに想いが一致する人は珍しいもので、僕は生き別れの兄弟かと勘違いしたくらいである。今の時代にはこういうクリエイターが必要なのだと、改めて認識した次第だ。

イノベーションを起こすには、変化を起こすには、停滞を忌み嫌うのであれば、痛みに耐えねばならない。先進的なことを受け入れねばならない。それがこの先生き残るすべなのではないかと、強く思う次第である。

- WRITER PROFILE -
フリーランスライター。日本最大級のクラウドソーシングサイト、ランサーズの認定ライター。ライター歴は浅いものの様々な経験を生かし、ジャンルに縛られず、自由自在に記事を執筆する。個人ブログでは毎日記事を執筆しており、日に10本あげることも。
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