通信する乾電池「MaBeee」。スマホを使って電池式おもちゃを自在に操る
はじめに、現在のお仕事内容と、ノバルス社で働くことになったきっかけを教えてください。
技術担当として働いています。以前は時計のメーカーであるセイコーインスツルに勤務し、時計の開発に携わっていました。ノバルス社に転職したのは、前職時代から、弊社代表の岡部と共に「MaBeee」の開発に関わっていた縁もあって、声を掛けてもらいました。
現在の仕事内容は、アプリの開発を始め、何でもやっています。今後は次の製品のソフトウェア開発や、サーバーを絡めた新しいアプリケーションも作ろうとしているところです。
「MaBeee」はノバルス社の第一弾製品として発売されていますが、製品の特徴は?
乾電池で動くおもちゃに「MaBeee」を入れると、通常はスイッチを手で動かし、オンとオフしか操作することができないものでも、専用のアプリと連動し、スマートフォンを使って動かすことができるのです。電車のおもちゃの場合、単純にオンとオフだけでなく、スマートフォンを傾けたり振ったり、音声を認識させることで、速度に緩急をつけることができます。
アプリの画面に映る数字がモーターの強さになっていて、100が最大です。また、電池が入る製品であれば、玩具以外でも使うことができます。ライトに装着して、明るさをスマホで調整したり、一定のリズムで光らせたりすることもできます。
開発のきっかけは、技術者が社外でアイデアを語り合う「ヤミ研」
「MaBeee」を開発したきっかけについて教えてください。
「MaBeee」が誕生するきっかけとなったのは、ヤミ研「100日ラボ」です。大手メーカーでは、企画者やエンジニアが斬新なアイデアを持っていても、市場規模が不透明であることや、事業領域が異なるといった理由から製品開発に繋がらない場合が多いのです。
そういった現状を打開すべく立ち上がったのが「100日ラボ」でした。現職に在籍したまま、眠っているアイデアの商品化を会社に内緒で目指す、製品開発コミュニティです。
前職の時、岡部が主催する集まりに誘われ「あなたの作りたいものは?」というお題で十数人の様々な業種の方々と語り合ったことが始まりでした。
ヤミ研の集まりの中で、どのようなアイデアが出たのでしょうか。
1回目の集まりでは、ああでもない、こうでもないと話し合い、「エビアンストック」という、ストックしてあるペットボトルを一本消費するたびにボタンを押すと在庫が残り少なくなった時にスマホに通知してくれるという、今で言うAmazon Dash Buttonのようなものや、「ゆるキャラコミュニケーション」という特定の送信者やキーワードを含むなど、条件に合うメッセージが届くとぬいぐるみが動いて教えてくれるというもの、それから「MaBeee」の元になったアイデアも出ました。そこで「2回目の集まりまでにデモができたらいいね」という話になったんです。Bluetooth Low Energyとスマホを繋ぐ開発キットを使えば、そのアイデアのデモを作ることができると考えたのですが、その当時はBluetooth Low Energyが安定的に動作する端末はiPhoneしかなかったんですね。「Macがあれば作れるけど持ってないよ」と岡部に伝えたら、その年の年末にMacが送られてきました。「言った手前でしょうがねぇな」と正月返上で作りましたね(笑)。
本業の傍ら、スカイプ会議をしながら開発を進める
現在の「MaBeee」の形が完成するまでのプロセスについて教えてください。
一番最初は電車の上に基板を載せる形で、まだ電池の形はしていなかったんです。うちの子に渡してみると、このおもちゃで一日中遊んでいました。スマホで電車を動かして、駅に停車させるのが楽しかったようです。
プラレールをスマホで動かすアイデアは、当時勤めていた会社の同僚のアイデアでした。ソフトウェア専門の自分と、ハードウェア専門のその人が組んだことにより、形になりました。その後、電車の上に載せていた基板を電池にしてみようと思いつき、試作品を3Dプリンターで作りました。
製品化に向かって動き出したのはそこからです。ぼくが尊敬する回路設計エンジニアに声をかけ、優秀なスマホアプリエンジニアにも仲間になってもらい、力を合わせて開発に取り組みました。すべて綱渡りでしたが、能力がある人たちとうまく繋がり、形になりました。
開発時に苦労したことがあれば、教えてください。
メンバーたちはそれぞれ会社で働きながら開発に携わっているので、なかなか集まることができませんでした。そのため、毎週スカイプで会議をしながら開発を進めていきました。仕事が終わってから夜な夜な自宅で作業をし、限られた時間の中でいかに回していくかということが課題でした。
製品の形になったものの、電池の高さが合わず作り直したこともあります。
「MaBeee」を購入したユーザーの反応は?
お客様から、「すごく楽しく遊んでいます」といったような感想をいただくことがあってうれしいです。また、2020年には小学生のプログラミング教育が必修になるので、教材として「MaBeee」を使用できたら面白いと思います。
IoTへの展開も可能性があります。IoT機器というと通信機能を持つように作られたものですが、「MaBeee」を使えば通信機能を持たないものでもスマホに繋ぐことができて、簡単に電力をコントロールできるようになります。
時代に先駆けてBluetoothウォッチを開発。「本当に通話できるの?」と聞かれた
ノバルス社に入社する以前は、時計の開発をしていたと仰っていましたが、なぜ時計を作る会社を選んだのですか。
学生時代は特別に時計に興味があったというわけではないのですが、ロボットに関連することをやってみたいう気持ちがあり、自宅から近く、時計の製造機械も自社で開発しているセイコーインスツルに入社を決めたんです。最初に配属された部署は、少し変わった腕時計を作っているところでした。ジョイスティックがついていて、ゲームができる時計の開発に携わり、そのユーザーアプリ開発環境も構築しました。その流れで携帯と赤外線で通信する時計やアクセサリもなども開発し、その後、Bluetooth機能がついた時計の開発に携わりました。
途中でモバイルコミュニケーションの部署に異動し、パソコンに挿入するデータ通信専用カードの開発をしていた時期もありますが、最終的にはまた時計の部署に呼び戻されました。自分の技術のコアは、2000年頃から始まったBluetoothウォッチの開発にあります。
Bluetooth機器の先駆けですね。
はい、当時はまだBluetoothは黎明期でした。そこでBluetoothウォッチプロトタイプをCES(コンシューマエレクトロニクスショー)に出そうということになりました。
通話機能が付いた時計の試作品ができた時、外国人に「本当にできるのか?」と言われたのですが、携帯とペアリングして「ハロー」と話しかけた声を聞いて、「本当に動くんだ!」と驚いていましたね。
2000年から2001年にかけて、このプロトタイプの開発のためにスウェーデンに半年ほど滞在したこともあります。現地では、驚く体験もしました。本社で作業をしていた時、急に警報機が鳴って……。何かと思ったら、若者が窓を割ってパソコンを盗んで行ったんです。当時は液晶でできたデスクトップのディスプレイが珍しかったのですね。スウェーデンのでっかいポリスがやってきて、「おまえかー!」と疑われました(笑)。東洋人も珍しかったのですね。
結果、2001 Best of CESを受賞することができました。苦労が報われた瞬間を味わうことができました。
次世代育成をしつつ、ベンチャーだからこそできることにチャレンジ
アイデアはどのように湧いてくるのですか?
会社で座っていると湧いてきませんね……。今の職場は近くにランステーションがあるので、昼休みには30分くらい走って帰ってきます。走るとアイデアが湧いてくるんです。さらに、徒歩5分の場所に銭湯があるので天国ですね。
現在のお仕事の中で、やりがいを感じていることは?
自分の作った製品に対するお客さんの反応を見ることができるのが面白いですね。時計を開発している時は、お客様の声を直接聞くことがなかったので。店頭支援で販売に行く時もありましたが、お店の一人として動くため、他社製の時計も売らなければいけませんからね。あとは、「MaBeee」の開発や展開を通じて色々な人との繋がりが広がっていくところも楽しいです。
小山さんの今後の展望についてお聞かせください。
「MaBeee」事業を安定させ、その他の製品開発もやっていきたいと思っています。世の中はどんどん進んで行くので、人工知能などのトレンドを追いかけつつ、やれることをどんどんやっていきたいですね。大企業ではできないこと、ベンチャー企業に所属しているからこそできることがあると思うんです。
また、今後は自分たちの世代が持っている技術を、次の世代に伝えていく必要性についても考えています。大手メーカーにいた時は、自分のようなニッチなことをする部署には若手がなかなか来なくて、技術を継承できないのがもったいないと感じていました。